戦力外通告に「まじか…」 失意の底にいた佐藤直樹…恩返しを誓った栗原陵矢からのLINE

ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】

10月に戦力外通告を受けて来季から育成契約 決断を一番に報告した人物は

 育成から再出発となった。浮き沈みの激しい1年を終えて、今胸にあるのは、先輩への恩返しだけだ。ソフトバンクの佐藤直樹外野手が11月28日、球団と育成契約を結んだ。「自分自身とも向き合っていかないといけない。技術向上もそうですけど、自分が変わらないと。今まで通り頑張っているだけでは無理」。決意を語る中、支えとなったのが、栗原陵矢外野手の存在だった。

 佐藤直にとって今季は4年目。1軍では主に代走や守備固めとして41試合に出場、3盗塁を記録した。戦力外通告を受けて、育成契約を結ぶまでの期間は「『新しい環境でやったら自分も変わるのかな』と考えたり、色々悩みました。結構期間も開いて、1人で家にいる時とか『野球、もういいかな』と思う時もありましたけど、いろんな人に支えられているなって」と漏らす。失ったものが大きすぎた一方で、気がつかされたこともたくさんあった。

 1月に「鏡視下腹腔鏡虫垂摘出術」を受けて出遅れたが、オープン戦では本塁打を放って開幕1軍を掴んだ。しかし、6月12日には登録抹消となり2軍に降格。ウエスタン・リーグでも17試合出場に終わり、ほとんどを3軍で過ごした。「めっちゃ辛かったです。本当に今年は、6月以降は人生で一番悩んだんじゃないかくらいでした」と失意の底にいた中、スマートフォンが鳴る。LINEの送り主は、栗原だった。

「『直樹、大丈夫か?』と連絡をくださって『俺も悔しい』『絶対上がってきてくれ』ということを伝えられました。率直に嬉しかったです。1軍でクリさんも悩んで大変な時期でもあったと思いますし、そうやって後輩に気を遣って連絡をくれたのは嬉しかったです。もう1回、絶対に上がるという気持ちになりました」

 今季は、PayPayドームのロッカーも隣同士。2人とも明るいキャラクターで、距離は自然と近づいていった。佐藤直にとっては2歳年上にあたる栗原。「クリさんはふざける時はお互いにふざけたり、でも野球の話で真剣に相談したらちゃんと乗ってくれたり。こうやって落ち込んでいる時には絶対に声もかけてくれますし、尊敬しています」。プライベートで食事に出かけることも多く、どんな時も寄り添ってくれる先輩だった。

ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】

「人生で一番悩んだ」というほど、3軍にいた夏場以降は辛かった。ファームの非公式戦でも打率.214と成績面でも苦しみ「最初はいろんな人が『頑張れ』と言ってくれたんですけど、気持ちが入らなかった。3軍にずっといて、野球辞めたい、嫌いになるくらい悩みましたし、へこんでいました」と振り返る。気持ちの面でも、どうしたらいいのか、進む道が見えない。悩み、思い詰めていたからこそ、栗原をはじめ応援してくれる人の言葉が余計に響いた。

「僕がもし、そういう後輩に声をかけられるのかと思ったら、できない。そうやって声をかけてくれる人は本当に大事というか、応援してくれる人のために頑張らないといけないです」

 10月24日、球団から戦力外通告を受けた。「戦力外になった時、一番に連絡したのがクリさんでした」。当時は他球団からのオファーを含め、いろんな選択肢を視野に、進路を考えていた。「(クリさんは)『まじか……』という感じで。その時はまだどうするのかわからなかったので『どちらにせよ上がるしかない。頑張れよ』というふうに言ってくれました」と明かす。「ありがたいと思えました」と、どこまでも感謝は尽きない。

「まずは野球で、ファームで結果を残すこと。『こいつは支配下にせなあかん』というくらい結果を残して、チームに必要とされる選手にならないといけない。そこ以外の部分でも『変わったな』と思われるように。1つ1つの行動を見直していきたいです」

 もう1度、支配下登録を勝ち取ることはもちろん、自分自身の“心の成長”も、心配してくれた人たちへの恩返しとなる。来季の背番号は138番。2024年は、野球と自分自身と向き合うシーズンにする。支えてくれた先輩のために。

(竹村岳 / Gaku Takemura)