小久保監督にかけられた「お前しかいないから」 川瀬晃が自信を深めた出来事

ソフトバンク・川瀬晃【写真:福谷佑介】
ソフトバンク・川瀬晃【写真:福谷佑介】

「今まで自分が貫いてきたバント、小技を評価して言葉にしてもらったのは初めて」

 濃密な時間となった。宮崎での秋季キャンプ第4クール3日目となった16日。自由練習時間に川瀬晃内野手が小久保裕紀監督と対峙した。川瀬からのご指名に応えて指揮官自ら打撃投手を務め、言葉を交わしながらの打撃練習は進んでいった。13時50分頃に始まった特打は55分間にわたって続いた。

「良い時間でした。楽しかったっていうと言い方が悪いですけど、言葉を掛け合いながらやれたので。キャンプはあと1日ありますけど、自分の中で最後に相応しいバッティング練習ができたなと思います」

 汗だくになりながらバットを振り続けた川瀬は気持ち良さそうに小久保監督との時間を振り返った。前日のうちに指揮官には打撃投手を務めてくれるように要望。「キャンプが始まる前から自分で(お願いしようと)決めていたこと。最後は監督に投げてもらっていいオフを過ごしたいと、決めていました」。アピールとともに、来季に向けた決意の表れでもあった。

 2015年のドラフト6位で大分商から入団した川瀬は8年目の今季、キャリア最多の102試合に出場。シーズン終盤は二塁、三塁でスタメン出場を続けた。熾烈な順位争いを直に経験できたことで「自信になる部分がものすごく強かったですし、来年はレギュラーとして二遊間を守りたい」と、来季に向けて自信も深まった。

 そんな川瀬の背中を押す出来事もあった。秋季キャンプ序盤、練習中に小久保監督に言葉をかけられた。

「自己犠牲のできるヤツがいないと試合には勝てない。そういうことをできるのはお前しかいないから」

 昨季、そして今季序盤と2軍でプレーしている間、気にかけてくれていた指揮官からの言葉。決してホームランバッターではなく、自ら「地味」というのが、川瀬のプレースタイルだ。決して目立つ存在ではないが、そうした縁の下の力持ちとしての存在を、小久保監督はしっかり見てくれていた。

「実際、目立たないですし、褒められたり、クローズアップされることってなかった。監督に直接言われたときに、見てくれている人がいるんだなってものすごく感じましたし、今まで自分が貫いてきたバント、小技をしっかり評価してくださって言葉にしてもらったのは初めてだった」

 高校時代からホームランバッターではなかった川瀬。プロ入りしてからもシュアな打撃と小技、堅実な守備を武器にしてきたが、与えられる役割は主に守備固め。なかなかスタメンのチャンスは貰えず、自身のスタイルを変えるべきが悩むこともあった。

「打たないと試合に出られないというのは自分の中でも分かっていましたし、実際、ホークスの打順の中に入っていくには打たないといけないのかな、チャンスに強いバッターじゃないといけないのかな、と思っていました」

 それでも実直に自分のスタイルを磨き、堅実かつ献身的な姿勢は変えなかった。新体制になったこの秋。自信を深めて迎えたキャンプで小久保監督からの言葉が川瀬に響いた。「言葉をいただいてやってきたことは間違いじゃなかったんだなって思っていますし、もっと必要とされる選手になりたいな、と思いました」。2024年に向けて湧き立つものを感じた。

 遊撃には大先輩の今宮健太内野手がいるものの、決してレギュラーが確約されているわけではない。川瀬自身も「まずはショートを狙っていきたい」と、同郷の先輩に挑戦状を叩きつける。目指すレギュラー奪取へ。川瀬にとってこのオフが重要になる。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)