秋季キャンプで「勉強しましょう」 メニューに密かに「講義」が組まれている理由

「ドライブラインベースボール」によるフィードバックの様子【写真:竹村岳】
「ドライブラインベースボール」によるフィードバックの様子【写真:竹村岳】

日々の練習メニューに記載された「講義(アーリー)」「講義(栄養・休養)」…

 新たな取り組みとして、野手が宮崎、投手がファーム施設の「HAWKS ベースボールパーク筑後」と、初めて縦割りで練習を行っているホークスの秋季キャンプ。小久保裕紀新監督が就任して迎えた初のキャンプはフロント主導で、これまでと一味違った形で選手たちは汗を流している。

 今回のキャンプではチーム練習は一切行わず、選手個々の課題に特化したメニューが組まれている。中には守備練習を一切、行っていない選手もいる。そして、日が暮れるまで泥まみれになるのではなく、夕方にはほぼ全選手がグラウンドを後にする。連日のように取り上げられている米トレーニング施設「ドライブラインベースボール」による動作解析とフィードバック、スイングデザインなども行われ、科学的アプローチを取り込んだキャンプになっている。

 そんな中で、まだ、あまり知られていない密かな取り組みがある。キャリアが浅い若手や育成選手たちを対象に実施されている“勉強会”だ。

 日々、作成される練習メニュー。宮崎組の中には「講義(トレーニング)」「アームケア」「講義(アーリー)」「講義(栄養・休養)」「セルフケア(実技)」といった項目が組み込まれている。若い育成選手や体作りの必要のある選手が組分けされていて、日々、座学の時間が設けられ、練習以外に、必要な知識を教え込む時間が用意されている。

 大塚潔ストレングス&コンディショニング(SC)担当はこの“勉強会”の意図についてこう語る。

「技術に特化した組と体作りが必要な組で練習の中で、どうしても時間にズレが生まれてしまう。そのズレがあると、コーチがメニューを組みづらくなるんです。グラウンドに立っている時間を短くする、消費カロリーを減らすことで体作りを促進するというのがスポーツ科学の世界では当たり前。空いた時間をどう活用するか、ということで『だったら、お勉強しましょう』となりました」

 球団にとって初めての試みとなる野手と投手に分けた分離キャンプ。さらには選手個々によって技術練習に特化したメニューか、体作りに重点を置いたメニューにするか、は選手の特徴によって分けられる。チーム全体で行動することはウォーミングアップ以外にほぼなく、コーチ陣がしっかりチェックするためには、組によって時間のズレが生まれてしまうという。

 ただ、練習の空白時間に、闇雲に練習やトレーニングを行わせると、消費カロリーが増えてしまい、体作りの必要性がある選手たちにとって“逆効果”になりかねない。あまり体を動かす必要がなく、かつ時間を無駄にしないためにどうするか、を考えた。

 大塚SC担当はこうも語る。

「若い選手はそうした体作りの知識がまだまだ足りないですし、そういう教育もこれまで十分にできていなかった。SNSでは偏った情報、自分の興味があることに集中した知識は得られるけど、興味がない知識は得られない。本質的な情報を与えられるかが選手の成長を手助けできる鍵になるかな、と」

 プロ野球選手とはいえ、1年目や2年目の若手選手は、まだまだトレーニングや体のケアの方法、栄養や休養の重要性といった知識が乏しい。入団時にそうした座学の時間は設けられているものの、より集中的に知識を深めていける機会になる、ということもあって、SC担当や栄養士による“勉強会”が開催されることになったという。

「サッカーやラグビーではアカデミーやエリート教育の場では、必ずこうしたものを学ぶというのが、カリキュラムが入っているんです。ただ、野球界では、まだそういうのは不足していると感じます」。さまざまな科学的な取り組みが取り入れられているホークスの秋季キャンプ。その効果はどう出るか。来季の戦いにどう繋がっていくか注目だ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)