第1クールのある日、宿舎の食事会場で後輩5人に「じゃあみんなで飯行くか」
ソフトバンクはこの秋、野手は宮崎、投手は筑後と球団として初の“縦割りキャンプ”を開始した。野手組の最年長は、周東佑京内野手。「終盤戦よかったもの、今やっていることを固めていこうと。考える時間もあるので、そこをどうやっていくのか、時間を割いていけるかと思います。8割、9割がバッティングになりますね」と、明確なテーマを抱きながら秋季キャンプを過ごしている。そんな中、周東が後輩を連れて食事に出かけた日があった。
今季は114試合に出場して打率.241、2本塁打、17打点。36盗塁で、3年ぶりのタイトルにも輝いた。育成も含めて若鷹が練習に励んでいる中で、侍ジャパンにも選出されて世界一まで経験した存在感は際立っている。「あまり意識しすぎないで、自分のやれることをやろうと思います」と自然体を強調していたが、肌寒さが残る朝、毎日のように集合前から体を動かして準備をする姿を、必ず後輩たちは見ている。
3日には、笹川吉康外野手らに盗塁についてレクチャーもした。基本的に人見知りをしないが、1軍にいれば関わることの少なかった後輩に「難しいです。僕から行くのも変だなって思いながら……。(聞きに来られたら)話はしますけど」と距離感を探っていたという。その上で「変な気は遣わないでもらいたいとは思っています」とも付け加えていた。あくまでも自分のレベルアップのための秋。同じ空間にいる後輩に、姿を通して何かが伝わることを願っている。
第1クールでの宿舎での出来事。食事会場のテーブルに周東、柳町達外野手、海野隆司捕手、谷川原健太捕手、川瀬晃内野手、渡邉陸捕手らがいた。会話を聞いていた西田哲朗広報が明かす。「『周東さん、周東さん』みたいな感じで。『じゃあみんなで飯行くか』みたいな。佑京が後輩を連れて行こうとしているのは珍しいなって思ったので」。最年長の周東が、早速後輩を食事に連れて行こうとしたそうだ。
その“周東佑京の会”はすぐに開催された。第1クール3日目(4日)の練習後、休み前の選手たちは外食に出かけた。お店は中華、予約をしたのは川瀬だ。渡邉陸は「僕は連れて行ってもらえなかったです。『既婚者だけ!』って言われて」。代わって周東から声をかけたのが、野村勇内野手。「強引にねじ込んでもらいました。『お前、食事会場いなかったから』って誘ってもらいました」と深い意味はなかっただろうが、結果的に6人とも既婚者という会になった。
一体、どんな雰囲気だったのだろうか。シーズン中から周東と何度か食事をしたことがあるという柳町は「笑い話というか、よく笑いました。海野とか勇さんとか、タニ(谷川原)もいたので面白かったです。野球の話もしつつ、面白い話もして」と雰囲気を代弁する。その会では柳町、谷川原、川瀬がノンアルコール、周東、海野、野村勇がお酒をたしなんでいたそうだ。谷川原は「楽しかったです。中華料理屋だったんですけど、みんな静かなのに、海野が騒いで、本当恥ずかしかったです!」と暴露する。
柳町も谷川原も、話題の内容には「しょうもないことですよ」と口を揃える。野球の話もする中で、谷川原いわく「試合のこととか(それぞれが)イジったりしていました」という。“珍プレー好プレー集”のように、記憶に残っているシーンについて、6人が切り込む姿が、なんとなく想像できてしまう。谷川原は予約をした川瀬と同級生で「あいつはいつも予約係なんです。あいつ予約うまいんですよ、誰よりも」という経緯で今回は中華となったそうだ。
柳町はシーズン中、特に秋季練習中から周東とともに行動する姿をよく見かける。「めっちゃしゃべってくる先輩ですね。このキャンプは同じ行動も多くて、佑京さんも同級生もいないキャンプなので、寂しいんじゃないかって思います」と推察している。一方で、プロとしての姿勢も心からリスペクトしており「口では『もう疲れた』とか言うんですけど、やる時はすごいです。切り替えというか、試合になったら集中力とか、準備とかもすごいので」と、柳町にとっても背中を見る先輩の1人だ。
9月5日には、柳町に第1子の男児が誕生したことが球団から発表された。2022年6月に、同じく男児を授かった周東と“パパ”であることも共通点の1つ。「佑京さんの話はよく聞きますよ。僕はまだ生まれたてなんですけど、佑京さんの子どもは“暴れん坊”って聞くので、めっちゃ面白いです」。柳町自身、生まれて2か月の愛息も「生まれた時よりめっちゃ大きくなっています、物理的に(笑)。『え、重たくなってる』って。会いたいなって思いますけど、電話とかでも見ているので、相変わらず可愛いです」と話す表情は、立派すぎる父親だった。
谷川原も今季は4月30日に昇格して以降、1軍で戦い続けた。周東の先輩としての姿には「ロッカーでもうるっさい人なんですけど、やる時はやるし、アドバイスもしてくれるので、いい先輩です」と表現する。リスペクトの言葉を放ったすぐ後、付け加えるように「ただただうるさいですね。しゃべりすぎです。一生しゃべってますよ、ロッカーで。よくそんなしゃべれるなってみんなから言われています」と笑った。「佑京さんは友達ですね。なんでもしゃべりやすいし、親しみやすいです」。後輩との距離の近さもきっと、周東の魅力の1つだろう。
“予約係”となった川瀬は「『予約して』って言われたので、僕がいつも引き受けてます」と話す。周東とは自主トレもともにしたことのある関係性で「普段は先輩っぽくないですけど、野球の時はいつも熱心。プライベートと野球している時でまた違います」と、川瀬だから知っている一面もあるだろう。ロッカーでの周東についても「誰かに向かって話していると思うんですけど、みんなが無視して結局ひとり言になっちゃってますね(笑)。かわいそうなので、僕が話し相手になっています」と、それほどまでに口数が多いそうだ。
中華を楽しんだ“周東佑京の会”。お会計を持ったのは、一番先輩の周東だった。野村勇は「6人だったので、結構高かったと思いますよ」と推測しつつ、感謝した。人との距離の詰め方がうまくて、先輩からも後輩からも愛される。誠実で謙虚な人柄で、グラウンドに立てばチームの勝利のために全てを尽くす。そんな周東佑京だから、いつまでも応援していたくなる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)