“復活”の直後に大怪我「なんで…」 前を向かせたファンの存在…上林誠知が伝えたい感謝

16日のロッテ戦、代走で出場した上林誠知【写真:荒川祐史】
16日のロッテ戦、代走で出場した上林誠知【写真:荒川祐史】

怪我に泣かされ「ここ5年間、ファンの方がいなかったら耐えられなかった」

 ソフトバンクは22日、森唯斗投手、嘉弥真新也投手、上林誠知外野手、高橋純平投手、古川侑利投手、九鬼隆平捕手、佐藤直樹外野手の7選手に対して、来季の支配下契約を結ばない旨を通告したと発表した。実績を残した選手や過去のドラ1が溢れた発表で、ファンに愛されながら、上林がホークスを去ることになった。応援し続けてくれた、ファンの存在とは――。

 上林にとっては今季が10年目。56試合に出場して打率.185、0本塁打、9打点と最後まで打撃面で苦しんだ。2022年5月には右アキレス腱を断裂。「毎日痛いです」と、大怪我の影響は確実にプレーに表れていた。毎朝起きれば、右足がしっかりと動くのか、確認するのがルーティン。戦力外通告を受ける前には「一番は怪我の部分で、結果で覆すことができなかったのは悔しかったです」と2023年の成績を振り返る。

 苦しむ中で、ファンの存在をハッキリと感じられるシーンがあった。10月3日の楽天戦(PayPayドーム)で途中出場。8回1死一、三塁で、打席には中村晃外野手が立っていた。一塁が埋まっている状況だったが、楽天ベンチの選択は申告敬遠。この日一番の大声援を一身に受けて、上林がバッターボックスに向かった。結果は2点中前打。ファンからの大きな期待をしっかりと感じ「まだ見捨てられていないというか……。そういう気持ちになりました」と感謝していた。

 2018年に全143試合に出場して22本塁打を記録。誰もが新しいレギュラーの誕生を喜び、輝かしい未来を確信していた。しかし近年は怪我にも泣き、今季についても「いい時期が1度もなかったというか。気持ち的な部分で打っても嬉しくない。打たなくても悔しくないっていう。なんかこう、球場に行きたくない、人に会いたくないっていう状態が、ほぼ毎日だった」とモチベーションに大きな波があったことを認める。

 この取材を上林本人にしたのは、戦力外通告を受ける前だった。怪我の影響もあり、感じたことのない苦悩の中にいた2023年。それでも、何度だって前を向かせてくれた存在の1つが、ファンの方々だった。「本当にね、なんて言うんだろ……。ここ5年間、ファンの方がいなかったら耐えられなかった」。そう語り出したのは、感謝、感謝だった。

「(自分が)球場にいなくてもユニホームやタオルを持って、球場で応援している姿もリハビリしながら見ていました。どんな状況でも応援してくれるので。普通はね、こないだの試合(楽天戦)もそうですけど。こんな状態のバッターに対して期待なんかしてくれないと思うんですよね。それでもああやってすごい声援というか、あの日イチの声援を、それをギータさんでも近藤さんでもなく、自分の時だったっていうのは、自分で言うのもあれですけど、愛されているなっていうか」

ソフトバンクから戦力外通告を受けた上林誠知【写真:荒川祐史】
ソフトバンクから戦力外通告を受けた上林誠知【写真:荒川祐史】

 アキレス腱の断裂で、晴れ舞台から遠ざかった。長期の辛いリハビリの中でも、PayPayドームに51番のユニホームを着て、ホークスを応援するファンがいることを、誰よりも上林が知っていた。「やっぱりファームでも、どこにいても声援が一番なんですよ。ああいう瞬間があるから、まだ頑張れるというのはあります」。悩んでも、苦しくても、ファンの方々に支えられて、自分は今ここにいる。

「『いつまでも復活を待っているよ』って聞こえてくるような声援というか。これだけ毎年ダメなのに、なかなかあんな応援してくれないと思う。『もうお前はいいよ』っていう方が正直、普通は多く出ると思うんですけど。それでもああやって応援してくれるので。自分としては不思議というか、どこにそんな魅力があるのかなって感じですけど。でも、プロ野球選手ってそういうのも大事だし。ただプレーするっていうよりは、誰かの力になったりするのが一番だと思う」

 2022年は100打席ながらも打率.301を記録した。アキレス腱を断裂したのは5月18日で「去年ああやって『やっと復活したわ』って思ったシーズンで『なんで……』っていう怪我をしたところだった」。失意に落とされたとしても、自分なりに懸命に前を向いてきた。「今年のやる気、自分への期待というか、絶対に怪我に勝って、ギャフンと言わせるんだという思いではやっていた」と、もう1度晴れ舞台に戻る気持ちだけは失わなかった。

 16日に行われたロッテとのCS第3戦。延長10回に代走で出場すると、周東佑京内野手が放った中前打で、本塁に激走。前進守備の中で待望の先制点となり、試合を動かした。結果的にチームは敗れたものの「ああいう前進守備の中でギリギリ、セーフになったっていうところは『自分、よく頑張ったな』って。ここまで走れるようになったんだっていうのは感じた」。上林誠知は、まだ何も終わっていない。

「ただ1つ言えるのは、このままじゃ終われないっていうところはあるので……。まあ、後悔しないようにやっていくだけかなっていう。家族もそうだし、身内というか、関わっている全て、人のためにとは思っていますけど。だから、もう1回証明したいというか。もう1回目標とされる選手になりたい」

 上林自身にも、ホークスでの10年を誇りにしてほしい。それだけの確かな記憶と足跡を残したのだから。そして、復活を信じ続けたファンの方々も、上林を応援した日々を、誇りにしていてほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)