「孤独にさせたくなかった」 崩れ落ちた大津と津森…肩を抱き斉藤和コーチがかけた言葉

ソフトバンク・津森宥紀(左から3人目)に声をかける斉藤和巳投手コーチ【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・津森宥紀(左から3人目)に声をかける斉藤和巳投手コーチ【写真:荒川祐史】

悪夢の延長サヨナラ負けを喫したロッテ戦後にあった物語

 そっと肩を抱き、気落ちする2人に声をかけた。10月16日のZOZOマリンスタジアム。ロッテとの「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファーストステージ第3戦。延長10回の攻撃で3点を先制しながら、その裏に4点を失い、壮絶なサヨナラ負けを喫した直後、サヨナラ打を浴び、膝から崩れ落ちる大津亮介投手に寄り添う斉藤和巳投手コーチの姿があった。

 信じられない結末だった。両チーム無得点で迎えた延長10回。先攻のホークスは2死二塁から周東佑京内野手の中前適時打で1点を先制。さらに川瀬晃内野手、柳田悠岐外野手も適時打で続き、この回一気に3点を奪った。ファイナルステージ進出へ、3点差を逃げ切るだけ。その裏に悪夢が待っていた。

 延長10回裏。「打順の巡りとかいろんなこと考えると、大津から行きたかった」という斉藤和巳コーチの思いとは裏腹に、ベンチが7番手としてマウンドに送ったのは津森宥紀投手だった。津森は代打・角中、荻野に連打を浴びて無死一、二塁のピンチを招き、続く藤岡には右中間へまさかの同点3ランを被弾。一気に試合を振り出しに戻され、津森は放心状態でマウンドを降りた。後を受けた大津は藤原、ポランコを打ち取り、2死としたものの、岡に左前安打を許し、安田に右中間への適時二塁打。サヨナラの走者がホームへインし、まさかの幕切れとなった。

 マウンド上で呆然となっていた津森の肩を抱いて声をかけ、カバーに走ったホームベースの後方でガックリと崩れ落ちた大津にすぐに歩み寄ったのが斉藤和コーチだった。17年前、2006年のCS第2戦でサヨナラ負けを喫した姿が重なり、SNS上でも注目を集めたこの瞬間。斉藤和コーチはどんな思いでいたのだろうか。

「津森には、その前にマウンドに行って『余計なこと考えずに目一杯いけ』『勝負するしかない』って言っていた。ああいう結果になって『目一杯行ったんやろ?』『迷いなく自分で勝負に行ったんやろ』って言ったら『はい……』って言ったから『それならそれでいい』『結果はしょうがない』『まだ同点や、試合が終わったわけじゃない』って。アイツも放心状態だったから耳には入っていなかったと思うけど……」

「大津はまだリクエスト中だったからね。セーフって分かってはいたけど『まだ試合は終わってないぞ』って話をしていた。判定が出てからかな、『これは絶対に忘れないでおこうな』って。『すぐに気持ちを切り替えるのは難しいと思うけど、今後の野球人生に生かしていかんとあかんな』って話をした」

 3点リードの延長10回裏。マウンドに上がる投手にはとてつもないプレッシャーがかかる。チームメートの期待、ベンチの期待、そしてファンの期待……。そうしたマウンドでかつて戦ってきた斉藤和コーチだからこそ、その思いは痛いほど分かる。

「あそこはもう誰が行っても難しい状況。若いピッチャー2人に託さないといけない状況になってしまった。もう少しで勝てるっていう展開で打たれて、ピッチャーとして頭が真っ白になっているだろうな、すごく孤独を感じているだろうなって思った。ツモも大津も、責任を感じているだろうけど、ただただ孤独にはさせたくなかった」

ソフトバンク・大津亮介【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・大津亮介【写真:荒川祐史】

 チームメートも、ベンチも呆然となり、目の前ではロッテの選手たちが歓喜の輪を作っていた。目前にあった白星を手放してしまった自責の念。ただでさえ、孤独な投手が、より孤独を感じて心細くならないようにしないといけない。そんな思いで、ベンチでうなだれる津森、そしてグラウンドで崩れ落ちる大津の肩を受け止めた。

 試合後、ロッカールームでも斉藤和コーチは津森、大津の2人と改めて言葉を交わした。「2人は1年間、十分に頑張ってくれたから。本人たちは責任を感じていたとしても、こっちとしては、あそこで打たれたことで1年間の頑張りがなくなったとは思いたくない。そういう話はロッカーに帰ってからも2人にした」。

 津森はチーム最多の56試合に登板。大津もルーキーながら46試合に投げた。ブルペンには欠かせぬ存在で、2人の頑張りがあったからこそ、1年間を戦い抜くことができた。その貢献度は計り知れない。シーズン最後の登板の結果がどうであれ、2人の貢献を忘れてはいけない。斉藤和コーチの願いだ。

 あの悪夢の敗戦から1週間ちょっとが過ぎた。津森と大津の2人はPayPayドームで行われている秋季練習に参加し、来季に向けてのスタートを切っている。「結果的にこの経験が来年以降に生きてきてくれたら、無駄な時間ではなかったと思う。本人たちの中で、時間とともに消えていく可能性もある。本当に悔しい思いをしたのであれば、忘れて欲しくはない」と言う。

 秋季練習中、斉藤和コーチは2人にこう声をかけ、笑い合ったという。

「来年、優勝して、日本一になって、あれを笑い話できるようにしたらいいんや」

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)