不安を抱き、流した涙…上林誠知の壮絶な1年 シーズン中に見た「戦力外になる夢」

ソフトバンク・上林誠知【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・上林誠知【写真:荒川祐史】

森、嘉弥真らとともに来季構想外…10年目を終えて抱いていた“予感”「クビも近い」

 ソフトバンクは22日、7選手に対し、来季の支配下選手契約を締結しない旨を通達した、と発表した。森唯斗投手や嘉弥真新也投手がいる中で、上林誠知外野手までもが非情な通告を受けた。今季は56試合に出場して打率.185、0本塁打、9打点。クライマックスシリーズでも出場機会があったものの、2024年もホークスでプレーすることは叶わなくなった。シーズン中から抱えていた苦悩が、ハッキリと形に表れるような出来事があった。

 埼玉県に生まれ、仙台育英高(宮城)に進学。アマチュア時代から実績を残して、2013年のドラフト会議で4位指名を受けて、福岡にやってきた。2年目の2015年には2本塁打を記録し、2017年には134試合に出場。13本塁打を放ち、頭角を現した。2018年には全143試合に出場して22本塁打。高卒5年目で全試合出場を果たし、誰もがホークスの未来を担う選手になると、疑わなかった。

 以降は、怪我に泣かされる。2019年には右手薬指の骨折。2022年5月18日には、右アキレス腱の断裂という大怪我を負った。今季の数字を振り返っても「一番は怪我の部分で、結果で覆すことができなかったのは悔しかったです」。戦力外を告げられる前の今月中旬、上林は鷹フルの単独取材にそう話していた。定位置をつかみ切ることができずに“出たり出なかったり”という状態が続く。1軍で多くの経験を積んできた上林でも、気持ちの波が大きくなってしまった1年だった。

「一番ダメなシーズンでした。一番というか、いい時期が1度もなかったというか。気持ち的な部分で、なんというか、打ってもうれしくない。打たなくても悔しくないっていう。なんかこう、球場に行きたくない、人に会いたくないっていう状態が、ほぼ毎日だったので。そんなシーズンでしたね」

 今季でプロ10年目を終えた。節目の年数を迎えて「本当、そこは意識しますよ。今年自分がそう(戦力外に)なる可能性もゼロではない。球団から『いらない』と言われたらそれで終わりなので」と明確な危機感は抱いていた。そして続けるように「2年後にはもう30歳になる。もう、本当にクビも近いので」と、何度も自分に言い聞かせてきた悲壮な覚悟を、もう1度思い出してオフを迎えるつもりだった。

 今季の戦力外の第1次通達期間は10月2日から13日までだった。他球団のニュースは当然、上林の耳にも入っており「阪神でいえば北條(史也)さんとか高校から知っていましたし、1個上ですしね。高山(俊)さんもそうですけど、何かしら輝きを放っていた選手でも、こうなるっていう……」。そして「(自分も)同じような立場ではあるので、って感じです」と、とても“他人事”には思えていなかった。

 今季は開幕1軍をつかんだものの、4月24日に登録抹消となった。ファームにいた時の表情はなかなか晴れず。打率が1割を切る時期もあり「ずっとですけどね。ちょっと頑張ろうと思ってもすぐに戻っちゃう」と明かしていた。5月中旬の出来事、苦悩は夢にまで現れる。上林は、こんなことを漏らしていた。

「戦力外になる夢を見たんですよね」

 唐突で、リアルすぎる夢。ハッと覚ました目からは、涙が溢れていたと笑いながら話す。「クビになったら何するの、って、その時にすごく不安になったんですよね。10年やって終わって、何するんやろうって、ちょっと怖くなりました」。おぼろげな記憶の中で確かに覚えているのは、他球団のユニホームに袖を通していたこと。今はそれが“正夢”になるように、現役続行を希望している。もう1度自分の力を、心から信じるしかない。

 もう1度強調しておくが、この取材は戦力外を告げられる前にした内容。その時点ではあるが、上林に「改めてファンの方々に伝えたいことはありますか?」と聞いた。「待っていてください。そんな感じですかね」。いつかもう1度、晴れ舞台で輝く姿を信じて、待つ。10年間、ホークスにたくさんの感動を与えてくれて、本当にありがとう。

(取材・米多祐樹、竹村岳 / Yuki Yoneda,Gaku Takemura)