周東佑京がかけた「後ろにオレがいるから」 緊迫の場面でドラ3生海が笑顔になった瞬間

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

16日のロッテ戦、延長10回1死二塁で代打として送り出された生海

 初の大舞台にもリラックスして打席に立っていた。16日にZOZOマリンスタジアムで行われたロッテとの「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファーストステージ第3戦。延長10回1死二塁のチャンスで、甲斐拓也捕手に代わって打席に送られたのは、ドラフト3位ルーキーの生海外野手だった。

 両チーム無得点のままで突入した延長戦。7回以降、走者を出せていなかったホークスにとって、代打で右中間への二塁打を放った柳町達外野手は久々の、しかも得点圏の走者だった。なんとしてもこの走者をホームに返したい。千載一遇のチャンスで、ベンチの決断は代打・生海だった。

 多少なりともサプライズのあったこの起用。生海自身も「相当、大事な場面だったので、自分も『ここで?』と思いました」と驚きもあった。それでも打席では「そんなに緊張しなくて、打てる球を来たら振ろうくらいの気持ちでいました」と肩の力が抜けた状態でいられた。

 初球のスプリットに対して積極的にスイングを仕掛けた。3球目もスプリットをファウルに。2球目と4球目のスプリットはしっかりと見極めた。結果的には2ボール2ストライクから5球目の真っ直ぐにバットが空を切り、空振り三振に倒れたものの、堂々と澤村と対峙していた。

 この打席の直前、ベンチから出てきた生海はネクストバッターズサークルで笑顔を浮かべていた。代打を送られた甲斐、次の打者の周東佑京内野手と何やら言葉を交わすと、笑みを浮かべながら打席へと向かった。緊迫の場面で浮かべた笑顔の理由はどこにあったのだろうか。

 生海はその時をこう振り返る。

「佑京さんが『後ろにオレがいるから』みたいなことを言ってくれたんです。『じゃ、佑京さんに任せました』って言って、それで笑っていました。拓也さんからも『思い切っていったらいいよ』『とにかく楽しんでいけ』『思い切りいけ』って言ってもらいました」

 試合の行方だけでなく、CSの行方も左右する重要な局面。ルーキーにとってはこれまで感じたことのないほどのプレッシャーがかかる場面だっただろう。そんな緊迫感を悟ってか、甲斐と周東は先輩として生海に言葉をかけた。「ありがたかったですね。多分それがなかったら、ちょっと固くなっていたかもしれないので……」。

 生海は空振り三振に倒れたものの、積極的にバットを振りに行く姿勢に奮起したのは、「オレがいるから」と声をかけた周東だった。「生海がああいう緊迫した場面で、勇気を持って振っていく姿を見ることができた。その勇気を引き継いで、絶対に決めてやろうと思っていました」。言葉通りに中前へと弾き返して先制点を叩き出したのだから格好いい。

 試合は悪夢のような逆転サヨナラ負け。チームの2023年の戦いが終わったが、最後の試合にはこんなドラマも隠されていた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)