最終回のドラマは主砲のバットから始まった。ソフトバンクは9月30日、本拠地PayPayドームで行われた日本ハム戦で3-2で逆転サヨナラ勝ちした。勝負を決めたのは中村晃外野手。そしてお膳立てとなる同点ソロを放ったが、キャプテンの柳田悠岐外野手だった。
1-2と1点を追う展開のまま、試合は9回に突入した。8回の無死一塁の状況を逸して本拠地に漂っていた重苦しいムードを振り払ったのが柳田だった。9回の先頭で打席に入ると、昨季までチームメートだった田中正と対峙した。
1ボールからの2球目。内角高めの真っ直ぐを捉えた打球は弾丸ライナーで右翼スタンドへと一直線に飛んでいった。「ドライブでしたけど、芯に当たったのでよかったです」。スタンドのファンも一気に湧き上がる、起死回生の同点弾となった。
この打席まで柳田は空振り三振、左飛、二ゴロと3打席連続で凡退していた。勝負の9月も打率.259と、決して好調とは言えない内容だった。チームを背負う責任感は誰よりも強いキャプテン。決してそれを表に出すことはしないが、フラストレーションを抱えていた。
「相手どうこうというよりも、自分がクソみたいなバッティングをしていてイライラしていたんで、払拭できて良かったです。打てる球を打てていないんで、情けないなって感じ。(今日も)『終わってんな』と思っていたんで、ストレス発散で」
自分へのイライラが募っていた。チームもそこまで日本ハム投手陣の前にわずか3安打に抑え込まれていた。なんとかしたい、という意地と勝利への渇望がバットに乗り移り、ボールをしばき上げた。
自身の一発で試合を振り出しに戻すと、さらに中村晃が同じように弾丸ライナーで右翼へサヨナラ本塁打を放った。ベンチから飛び出した柳田は大はしゃぎ。殊勲の中村晃とハイタッチを交わして、喜びを爆発させた。
「晃が決めてくれたんで良かったです。(はしゃいでいたのは)『終わって帰れるな』と。感謝してます、晃には」
翌日は午後1時開始のデーゲーム。延長戦にもつれ込むことなく、試合が決着し、早く家に帰れることを喜ぶのも“ギータらしさ”全開だった。
熾烈なクライマックスシリーズ進出争いは続く。一戦一戦、柳田をはじめとする選手の“勝ちたい気持ち”が滲む。「それまで板東とかみんないいピッチングしてくれていたんで、そういうピッチャーをなんとか助けられてよかったです」。楽天、ロッテともに勝ち、その差は変わらず。一戦必勝。選手たちは必死に戦っている。