お立ち台で異例の謝罪「すみません」 東浜巨が苦しんだ1か月…感情が溢れそうになった理由

ソフトバンク・東浜巨【写真:竹村岳】
ソフトバンク・東浜巨【写真:竹村岳】

アマチュア時代にもチームメートだった嶺井とのバッテリー「引っ張ってもらった」

 ソフトバンクは7日、PayPayドームで行われたロッテ戦に7-3で勝利した。先発した東浜巨投手が5回3失点の粘投。6月14日のヤクルト戦(神宮)以来の6勝目を挙げると、ヒーローインタビューでは「すみません。頑張ります」。しっかり者で口数も多い東浜だが、この質問には振り切るように言い切った。感情が溢れそうにも見えたお立ち台。その胸中に迫った。

 8月5日に登録抹消となり、無期限でファーム調整となった。1か月ぶりのマウンド。初回にいきなり3点を失う。「初回にああいうふうに点を取られたので、反省というか。気持ちを切らさないように」。4回は1死二、三塁とされたが茶谷を投ゴロ、田村を遊ゴロに仕留めた。5回も1死二、三塁から中村奨を一飛、ポランコを二ゴロに斬り本塁を踏ませなかった。

 試合後、又吉克樹投手と嶺井博希捕手とともにお立ち台に上がった。「チームに貢献できていなくて、悔しい思いを持ちながら過ごす日々の方が長かったので。そういう意味ではこの1か月という期間は苦しいこともありました」。7月から8月に抹消されるまでの5登板、チームが勝利したのは1試合だけ。自身の成績よりも、とにかく貢献できていないことが苦しかった。

 その後の囲み取材。「すみません」の意味を問われると「言葉の通りです……。うん……」と言葉が止まる。そして「本当に不甲斐ないという思いをずっと持ちながら。チームを勝ちに導けないというところも思いながら。その中でも試合はやってきますし、どういう状態でも投げるという原点に、もう1回戻って」と続けた。プロとしての宿命と向き合いながら過ごした時間だった。

 1か月ぶりの登板。何度も立ってきたはずの1軍マウンドだが「ここでダメなら、終わりだなと思いながら。崖っぷちの思いで上がっていました。初回に点を取られましたけど、その気持ちは常に前に出していきたいと思っていました」と悲壮な覚悟を胸に、この日を迎えた。感情が溢れそうになったお立ち台。「気のせいじゃないですか」と笑いながらも、力強く前だけを見て、答えた。

「僕らはやるだけなので。しっかりと前だけを向いてやりたいと思います」

 5回3失点という内容。白星こそついたものの、東浜自身も課題を感じた登板だったはずだ。それでも上がったヒーローインタビュー。西田哲朗広報は「3か月ぶりの白星でしたから。いいピッチングをしたけど勝てなかったっていう記憶もありましたし」と舞台裏を明かす。西田広報なりに、東浜のこの日までの結果も踏まえてお立ち台を打診したそうだ。

「又吉さんも最近“火消し”をしていて、中継ぎの人も上がるタイミングが難しいですし。その後もカバーした又吉さんも沖縄出身で、東浜さんと同級生でもあるので。そこは逆に、巨さん自身もお立ち台に上がりやすいんじゃないかと思って『又吉さんと3人でどうですか?』と相談させていただきました。なので、僕は今日は3人で行きたいと思っていましたね」

 東浜の反応には「『今日ヒーロー?』みたいな感じ。物足りないところもあったと思います」と代弁する。その中で、広報なりの視点で説明し、「野球はバッターだけじゃないし、そのことも踏まえて『又吉さんと3人でどうですか?』っていう打診の仕方をしました。もちろん白星も3か月ぶりでしたし、そういう趣旨もわかってくださった。『嶺井が頑張ったのも伝えたいし』ということで上がってくださいました」と続けた。

 沖縄尚学高、亜大時代にバッテリーを組んでいた嶺井とのバッテリー。2人でフラッシュライトを浴びて「僕も嬉しいですけど、僕ら2人に関係していた人たちが一番嬉しいじゃないか」と貴重な瞬間を噛み締めた。しっかり者の東浜と、マイペースな嶺井だが「嶺井は意外としっかりしていますよ。意外と言ったら失礼ですけど、リーダーシップも取れるし、いつも引っ張ってもらっています」と呼吸は合うそうだ。この白星を機にして、必ずここからやり返す。

「ああいう展開にした中で逆転してくれて。野手の皆さんのバッティングに応えたかった。そこだけです」。一連の囲み取材の中で強調したのは、ひっくり返してくれた野手への感謝。誰よりも実直に野球と向き合う、東浜らしさが詰まった登板だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)