“圧倒”された母の愛「やばいな」 大阪から埼玉に引っ越し…井上朋也が親孝行を誓った高校時代

ロッテ戦でプロ初安打を放ったソフトバンク・井上朋也(右)【写真:竹村岳】
ロッテ戦でプロ初安打を放ったソフトバンク・井上朋也(右)【写真:竹村岳】

「8番・一塁」でプロ初スタメン 2安打で藤本監督も「明日も使っていこう」

 家族に届ける快音だった。ソフトバンクは6日のロッテ戦(PayPayドーム)に3-0で勝利した。高卒3年目ルーキーの井上朋也内野手が1軍昇格し、「8番・一塁」でプロ初スタメン。2安打1得点で勝利に貢献し「はじめは少し緊張していたんですけど、2打席目に初ヒットが出て、あとは気楽にいけました」と、お立ち台でマイクを握り初々しく語った。初めての晴れ舞台で元気な姿と、結果を届けたい人がいた。

 中村晃外野手が「特例2023」で登録抹消となるなどして、舞い込んできたチャンス。「初めて、やっと上がれたので。ワクワクしています」と鼻息を荒くして、PayPayドームにやって来た。5回無死、右腕・西野勇士に2ストライクと追い込まれながらも直球を中前に弾き返した。プロ2打席目で放った初安打だ。6回2死にも左中間に弾き返し、マルチ安打でデビュー戦を飾った。

 残り25試合でつかんだ1軍でのチャンス。終盤戦での緊張感がありながらも、藤本博史監督は「これで明日もまた使っていこうと、こちらもそういう気持ちになった。素晴らしいバッティングをしてくれた」と起用を明言した。井上自身も「周りのことは関係なく、自分のやるべきことをやろうと思って毎日取り組んでいます」と、必死な姿勢を強調する。1勝の重みがあるのは理解しつつ、目の前の白球にとにかく食らいついていく。

 長い1日だった。5日の22時30分頃に1軍昇格を告げられた。井上がいたのは2軍の遠征先である名古屋。5日はウエスタン・リーグの中日戦(ナゴヤ球場)にも出場していた。一夜明け、6日は6時30分には起床。7時過ぎにホテルを出て、新幹線で福岡に戻ってきた。道中は「寝ていました」と苦笑いしたが、蓄えたエネルギーをしっかりとグラウンドで表現できた。

 プロ3年目で初めて立った1軍の舞台。ここに立つまでに、家族の愛情とともに育ってきた。大阪の四條畷市出身。中学3年生の時、花咲徳栄高を進路先に選んだ。「中学(生駒ボーイズ)の監督と高校の監督が、大学時代の先輩と後輩(の間柄)で。そのつながりもあって」。家族会議も行われたそうだが「僕の意見がすぐに通りました」と、両親はすぐに受け入れてくれた。大阪から埼玉へ、親元を離れて野球留学することが決まった。

 熱心に支えてくれたのが、母の弥生さんだ。毎週のように大阪から埼玉まで車を走らせ「日用品で欲しいものがあったら、それを買ってきてくれたり」とサポートしてくれた。井上自身は寮生活だったが、2年生になる前には、母は学校の近くに“引っ越し”。物理的な距離も近くなり、全力で自分を支えてくれた。思春期の真っ只中にいた井上も「最初は『やばいな』って思いましたけど、ありがたいことですよね」と、親の愛情には感謝しかない。

 2020年のドラフト会議は、高校の校長室で指名を待ったという。ホークスに1位指名され、プロ入りが決まった。母は学校近辺の家にいたそうで「指名があって、すぐに電話をかけました。出たのはお父さんでしたけど。(2人とも)『よかったなぁ!』って感じでした」と歓喜の瞬間を振り返る。3年目にして初めての1軍昇格という吉報も「それもお父さんに電話して。『頑張ってきいや』って感じでした」と、背中を押されてこの日を迎えた。

ソフトバンク・井上朋也が放ったプロ初安打の記念球を受け取る増田珠(左)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・井上朋也が放ったプロ初安打の記念球を受け取る増田珠(左)【写真:竹村岳】

 初めて味わう1軍の緊張感。アマチュア時代から大舞台を経験してきたが「はじめに思ったのが、ロッテの応援がデカいな、すげえなって思いながら守っていました。球場の雰囲気も全然違いましたし」と発見ばかり。オープン戦では立ったことのある舞台ではあるが、シーズンの終盤戦。「選手の生活もかかっているし、自分だけじゃない。そういう緊張感もありました」と、自分なりに強い自覚を持ってグラウンドに立った。

 ドキドキのヒーローインタビュー。スタンドを埋めた多くのファンの姿が、目に飛び込んでくる。手にしていた記念球は「お父さん、お母さんに渡したいです」と約束した。井上朋也の親孝行。両親がくれた愛情は、何倍にもして返していく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)