森唯斗の「努力を無駄にしないため」 好救援の又吉克樹の心を揺さぶった気迫と姿

好リリーフした又吉克樹をベンチ前で出迎えるソフトバンク・森唯斗(右)【写真:小池義弘】
好リリーフした又吉克樹をベンチ前で出迎えるソフトバンク・森唯斗(右)【写真:小池義弘】

6回2死一、三塁の窮地を脱した又吉「森が投げているというのもあった」

 魂と気迫が呼び込んだ1勝だった。3日にべルーナドームで行われた西武戦に3-2で競り勝ったソフトバンク。勝利の立役者となったのが、4月27日の楽天戦以来の白星を手にした森唯斗投手と、森が残したピンチを脱した又吉克樹投手だった。

 先発の森は初回、いきなり三森の失策などで2死一、二塁のピンチを招いたもが、栗山を右飛に打ち取って無失点に抑えた。2回に外崎にソロを浴びたものの、3回、4回は3者凡退に抑えるなど、尻上がりに状態を上げた。「ラストチャンスだと思っていた」。胸に宿る気迫は、抑えるたびに雄叫びとなった。

 分岐点となったのは6回だった。1死から蛭間のゴロを三森が捕れず、この日2個目の失策を犯した。続く渡部は空振り三振に仕留めたが、栗山に一、二塁間を破られて2死一、三塁に。ここで森は無念の降板。その“魂”を受け取ったのが又吉克樹投手だった。

 又吉はリリーフは圧巻だった。外崎への初球に移籍後最速となる150キロをマーク。3球目、再び150キロの真っ直ぐで一邪飛に仕留めて窮地を脱した。森は手を叩いてベンチから飛び出し、フェアゾーン近くまで歩みを進め、真っ先に又吉を、そして、野手をハイタッチと声で迎えた。

 又吉は試合後、こう語った。

「森が投げているというのもあったし、今まで頑張ってきた三森が、ああいう1つのエラーで責任を背負い込むっていうのはやっぱり違うと思うので」

 森と又吉。7月25日に又吉が1軍再昇格を果たすまで、ファームで汗を流し、互いの姿勢を見てきた。若手に交じりながらの日々には葛藤もあったはず。それでも、森は、朝早くに筑後のファーム施設に到着し、黙々と自分のやるべきことをこなした。又吉も己のレベルアップのために試行錯誤を繰り返し、球速アップに取り組んだ。1軍からなかなか声がかからなくとも、いつ来るか分からないチャンスのために準備を怠らなかった。

「去年、僕が勝ちパターンで投げているときも、彼が9回で苦しんでいるのも見ていましたし、そこからキャンプに先発で入ってきて、2度、怪我みたいなのがあって……。それでも挫けずに練習していたのを見ていた。なかなかチャンスがもらえない中で、2軍でも結果を出して、見習うところがあった。そういう意味で、勝ちという形で、彼に結果として渡せたのが良かった」

「森は人に見せないですよね。他の人に『俺、苦しんでるんだぞ』っていうのを絶対に見せないですし、そこは凄いなと思います。彼の努力を無駄にしないためにも、しっかり僕も努力していきたいなと思います」

 森から受けたバトンだったからこそ、又吉の心にも、いつも以上に火が灯った。常に野球に真摯に向き合い、マウンド上では己を、チームを鼓舞するかのように気迫を全面に出す。そんな姿はこの日だけでなく、ファームで投げていても変わらなかった。だからこそ、その魂はファンの心を震わせ、チームメートの気持ちを昂らせる。

「若い選手にも見習ってほしい」

 試合後、藤本博史監督は森の姿を絶賛していた。負ければ再び借金生活となる一戦で見せた、森の気迫と又吉の気概。停滞するチームの空気を打ち破ってくれる、そんな存在として期待したい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)