【連載・板東湧梧】ローテ飛ばされ「モヤモヤ」の8月 自身の成長を感じた意外な瞬間

ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】

8月は2試合登板で1勝1敗…26日の楽天戦は「今年の中で一番よかった」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、板東湧梧投手の8月前編、テーマは「ファームの時間」です。8月は1軍での登板は2試合に終わりました。その中で、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」での調整で気付いたことがあったといいます。板東投手自身が、成長を感じたという出来事とは。次回「8月後編」は9月2日(土)に掲載予定です。

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 8月は2試合登板に終わった。19日の西武戦(PayPayドーム)と、26日の楽天戦(楽天モバイル)で1勝1敗。自身の登板が台風接近の影響で中止になるなど、不規則な調整となりながらも、マウンドに立った。試合数こそ少ないが「自分の中では良くなってきた2試合でした」とポジティブに捉えている。手応えを感じているのは、どんな部分なのか。

 板東自身が「今年の中で一番感覚が良かった。操れた感じがします」というのが、26日の楽天戦だ。5回2/3を投げて2失点。3敗目を喫したものの、6三振を奪うなど「フォークがずっと良くなかったので、それが操れた感じがした。全体的に低めにも集めることもできましたし(自分がやりたかった投球に)近づいてきました」と言う。制球力とコンビネーションを生かした板東らしさが、ようやく形になってきた。

 ローテーションを飛ばされながら、1軍の管轄で調整を続けた1か月。まだまだ自分の立ち位置を確立していかないといけない立場だけに「投げないことには自分のアピールもできないし、優先順位を上げてもらうことも物理的に無理というか。どうしようもないじゃないですか」と本音を漏らす。「だからモヤモヤするし、いろんなことを考えちゃう時間でした」と“順番待ち”の時間が長かったからこそ、ぶつけようのない思いも抱えていたようだ。

 板東は定期的に、日本語で「瞑想」を意味するメディテーションというセッションを受けている。自身のことも「ネガティブ」と表現するように、投げられないことでモヤモヤした気持ちを抱える期間となってしまった。「その期間、そう(後ろ向きに)ならないようにというか。前を向いて何をすべきか考えていましたけど、少なからず嫌なことを考えるのもゼロではなかった」と言う。野球選手なのだから、思いを表現するにはまずはマウンドに立たなければならなかった。

 8月4日から6日まで、1軍は北海道遠征で日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)だった。板東は帯同せず、5日のウエスタン・リーグの広島戦(タマスタ筑後)で調整登板をした。2番手として6回を投げわずか67球、2安打1失点という内容だった。1軍の打者とはレベルも違うだけに比較はできないが、板東は胸を張って「自信にはなりました」と言い切る。

「1点取られはしたんですけど、圧倒じゃないですけど、しっかりと抑えられると思ったんですよね。1年目とか2年目の時とかはマジで抑えられる気がしなくて。2軍戦でも。そういう意味でも、成長できてるんだっていうのは感じられました」

 板東は2018年ドラフト4位で入団して、今季が5年目。ルーキーイヤーはウエスタン・リーグでも21試合に登板して3勝5敗、防御率4.14に加え「1軍で1試合も投げていないので」と、2019年がプロのキャリアでも一番キツかった1年だと認める。少しずつ経験を重ね、昨年10月2日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、勝てばリーグ優勝という一戦で先発を託された。たった1度の2軍戦のマウンドでも、自分の成長を感じるには十分だった。

「考え方が合っているのかわからないですけど、今まで1軍で投げていたのも、どこか自分で、大舞台の方が自分の力以上のものが出ると昔から思っているタイプで。1軍に行ったらアドレナリンも出るしっていう、変な自信というか。実力じゃなくて、そういう(自分の力以上のもの)ものでなんとか投げられるだろうとずっと思っていた。そういう環境でずっとやっていると、レベルも上がって、着実に力がついてきているのかなって、その時に感じました」

 板東は、年始に自身の目標をノートに書き出すなど、明確な意思が自身を突き動かしている。現在と1年目を比較すると「マインドの部分も、技術も全然違うと思いますけど。あの時はなんとなく過ごしてしまっていたなって思います。その時はいっぱいいっぱいだったんでしょうけど」と苦笑いする。技術も、明確な目標も、何倍もプロらしくなってきた証だった

 筑後にいた期間では泉圭輔投手、古川侑利投手、中村亮太投手と食事にも出かけたという。「泉は一番よく話をしますし、もどかしい気持ちはすごく伝わってきました。古川ともずっとご飯に行きたかったですし、同期入団の杉山(一樹投手)とも会えたので」と久々に顔を合わせた選手が、また自分の決意を新たにしてくれた。シーズンも終盤戦。チームのため、何より自分のために、ローテーションを勝ち取る。

(竹村岳 / Gaku Takemura)