「苦しんでいましたけど、前向きにしっかりやることはできていた」
苦しんできた男が放った値千金の一打だった。敵地ZOZOマリンスタジアムで行われた23日のロッテ戦。2連敗中のソフトバンクに勝利をもたらしたのは、中村晃外野手のバットだった。4回に4号逆転3ランを放つなど、4安打4打点の大暴れ。8月の月間打率.200と不振だった主軸にとって、待望の一夜になった。
2回の第1打席で左前安打を放って出塁すると、1点を追う4回の第2打席は2死二、三塁で打席へ。ロッテ先発の中森が投じた1ボール1ストライクの3球目、147キロの真っ直ぐを捉えた打球は右翼ホームランラグーンへと飛び込む3ランとなった。一振りで試合をひっくり返した。
6回の第3打席は四球を選んで出塁すると、8回の第4打席でも中前安打と快音を響かせた。9回2死二、三塁での第5打席でも投手強襲の適時内野安打を放ち、この日は全5打席で出塁した。4打点は今季自身最多。苦悩の日々を乗り越えた先に、この日の大当たりが待っていた。
背水の覚悟で挑んだ今季は一時打率3割を超えるなど、復活を印象づけるシーズンを歩んでいた。ただオールスターブレイクが明けた7月下旬から徐々に状態が下降。激戦の疲れもあって、8月18日の時点で打率は.265まで落ちた。焦りもあったはず。「苦しんでいましたけど、前向きにしっかりやることはできていたので、こういう風に打てる日を信じてやっていた」。中村晃らしく足元を見つめて、日々やるべきことを真っすぐに貫き通してきた。
その様子を見てきた長谷川勇也コーチは、中村晃の状態をこう分析する。「大きな狂いはなかったと思います。でも、ヒットが出ないと、あれだけ長くやっていてもバッターとしては焦りは生まれてくるもの。少しずつ状態が上向いてきて手応えを感じ始めたら、落ち着いて焦りも消えてきた感じはします。こうやって戻してきたっていうのはさすがだな、と」。
シーズンを戦っていれば、状態の浮き沈みは必ずあるもの。どんな好打者であってもそれは変わらない。ちょっとしたフォームの狂い、体調やコンディションの変化、肉体の疲労……。様々な要因が選手の体には起こる。いかに不調の時間を短くするか、落ちてきた時に修正するか、もプロとして大事な素養となる。2008年にプロ入りしてはや16年目。苦しみつつも、状態を取り戻しつつある中村晃を、師匠の長谷川コーチも「さすが」と言った。
2位のロッテとはこのカード1勝1敗になり、再び2.5ゲーム差になった。首位のオリックスとは11ゲーム差と遠く離れてしまっているが、中村晃は「1試合1試合やるだけですし、変に順位とか意識しても、目標を作るのが難しくなるので、自分ができることをしっかりやるだけです」と、ここでも足元をしっかりと見つめる。シーズン終盤、頼もしい男が当たりを取り戻してきたのはチームにとって朗報だ。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)