「終わったんだな」実感した自身の引退…サファテが流した涙の意味 尽きない家族への愛と感謝

始球式を行った元ソフトバンクのデニス・サファテ【写真:荒川祐史】
始球式を行った元ソフトバンクのデニス・サファテ【写真:荒川祐史】

「認めます、泣きました」…通訳からも「壮絶」と言われた2017年の戦い

■ソフトバンク 3ー2 西武(19日・PayPayドーム)

 大きくなった家族を見て、堪え切れなかった。ソフトバンクは19日、西武戦(PayPayドーム)に3-2で勝利した。試合前のセレモニアルピッチで登場したのは、球団OBのデニス・サファテ氏。2021年11月に現役引退を発表し、ようやくファンに、自分の言葉で感謝を伝えることができた。「8年間、家族と離れて生活していた中でも皆さんの支えがあったからこそ、これだけできたと思います」と頭を下げる。

 2014年からホークスに入団。2017年には、今もシーズン記録となっている54セーブを記録するなど常勝時代を築き上げた。2018年には右股関節を手術し、少しずつ第一線から退いていった。2020年からはコロナ禍で、米国と日本を自由に行き来することも難しくなった。少しだけホークスを離れることになったが、姿を見せると、スタンドのファンからも大きな拍手で迎えられた。

 セレモニアルピッチでは、同じくOBの鶴岡慎也氏が捕手役を務めた。投球の後に柳田悠岐外野手、長谷川勇也打撃コーチから花束を受け取ると、最後は3人の娘からも花束を手渡された。愛妻、愛息も加わって記念撮影をしていると、目には光るものが。サファテ氏も「認めます、泣きました」と言うほど。どんな感情が、涙となって溢れ出したのか。

「娘たちのああいう姿を見てしまったら、自分は父親なので。お父さんのいない生活じゃないですけど、今まで苦労もかけたので。これで、子どもたちにお父さんが戻ってきたと思います」

 2017年、チームは優勝し、サファテもキャリアハイと言える成績を残した。その一方で、妻のジェイダさんの体調は思わしくなかった。球場に来てから何度も電話を繰り返す。その姿は、山田雄大チーフ通訳から「(米国に)帰ったら?」と心配されるほどだった。山田通訳も「壮絶」と表現する2017年。涙に込められていた感情を、言語化するのも「難しいですね」と笑う。

「嬉しさもあり、寂しさもあり。『終わったんだな』っていうのが一番、的確ですかね。感情って言われると、言葉で表すのは難しい。いろんな感情が混じり合った感じです。家族から離れてしまった時期というのが、皆さんは知らないかもしれないですけど、2017年の1年というのも、家族はほとんど日本に来ることもできなかった。そういう時期に、寂しい思いもたくさんさせましたから」

 現役を引退する時も、決め手の1つが第4子を授かったことだった。自分が第一線で戦っている間に、長女のキンズリーさんの目線はどんどん自分に近づいてきた。「一番上の子が、最初の頃はこんなだったのが、瞬きをした瞬間にこんな大きくなっていた。それくらい、見逃してしまっていた時期、過ぎ去ってしまった時期があった」。家族の存在が、自分の全て。ユニホームを着た娘から花束をもらって、堪えられるはずがなかった。

 18日、19日には試合前の声出しに飛び入りで参加して、選手を鼓舞した。「逆に、勘違いしてはいけない。もっとできるんだから。今はこういう状況になっているけど、持っている力はこんなものじゃないと再認識してほしくて」。そして会見の途中、報道陣から質問が飛んだ。「もし、ホークスから首脳陣としてオファーがあったら?」。愛するホークスのために即答だ。

「どんな形でも、そういうことがあればイエスって言います。教えたり、共有したりするのも好きな部分。最初の頃、カーター(・スチュワート・ジュニア)に少しキツい当たりになってしまったかもしれないですけど。それが今生きていると思います。森(唯斗)もそうですけど、みんなそれだけのポテンシャルがあると思って、やったこと。もし、そういうオファーがあればイエスと言いたいです」

 ホークスへの愛、ファンへの感謝、家族の存在。サファテが残してきた全てが詰まったセレモニアルピッチだった。「キング・オブ・クローザー」が流した美しすぎる涙を、僕たちは絶対に忘れない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)