3学年上の奥村政稔「椎野はもう“子分”ですね。一番弟子です」
先輩の分まで、1軍の舞台で腕を振っている。結果を出すことだけが、何よりも刺激になるからだ。ソフトバンクの椎野新投手は7月5日に出場選手登録され、ここまで6試合に登板(16日時点)。まだまだ自分の居場所を確立しないといけない立場で、与えられた場面でアピールを続ける。その原動力のひとつとなっているのが、奥村政稔投手の存在だ。
椎野にとっては6年目のシーズン。オープン戦まで開幕1軍争いの中にいたものの、その枠に入ることはできなかった。ファームでの日々は「活躍以前に、どれだけ(首脳陣に)見てもらえる真っ直ぐなのか、そこを求め始めた」。何よりも自分のボールと向き合い直した期間。今季の最速は153キロを計測し、本格的な夏を前に待望の1軍切符をつかんでみせた。
自らを突き動かすのは、危機感。プライベートでも「めちゃくちゃ仲いいです」という奥村が、昨オフに育成契約に。親交の深い先輩の“戦力外”は「やっぱり、いろいろと思うことはありました」。プロの現実を目の当たりにし、あらためて結果が全ての世界だと思い知った。
椎野の趣味は「ポケモンカード」集め。YouTubeでコレクターの動画を見たり、レアカードを手にして小さな喜びを感じたりしている。奥村の愛息がポケモンに夢中だと聞くと、自身のコレクションの中からカードを束にしてプレゼントしたという。「(中でも目玉は)フシギバナですね」と笑顔で語る。ともに家族を支える父親。自分だけの人生じゃないからこそ、奥村の気持ちも理解できる。
3学年下の後輩は、奥村にとってもチームメート以上の存在。「椎野はもう“子分”ですね。一番弟子です。やっぱり可愛いやつですよ」と表情を崩す。ポケモンカードをもらったことにも感謝。「子どもが好きなんですよね。自分はそういうのは買ったりしないんですけど『いらないのちょうだい』『とりあえずキラキラしたのがいい』って言って(もらい)、息子にあげたらめっちゃ喜んでいました」。
キャンプ中には、宮崎から椎野の“弱音”が聞こえてきたという。「あいつはですね、ちょっとダメだったらすぐに電話してきます。『自分ももう筑後行きます』とか言って」。リハビリ組にいた奥村の方が、むしろ励ましていたようだ。「こないだもどこかが痛くて『病院行ってきました』『もうダメです』とか言って。でも次の日も試合で投げていて(笑)」。兄貴分は、優しい笑顔でいつも耳を傾けている。
育成選手にとっては、7月末でひとつの節目を迎えた。今季中の支配下登録は叶わず。しかし、前だけを見て懸命に練習する奥村に、椎野が願うことはひとつだ。
「奥村さんの肘も治りましたし、また一緒に野球がしたいです。あの人と野球するのは楽しいんですよ。だから育成だからとか関係なく、怪我を治して、また一緒に野球がしたいですし、僕もそれまではマウンドに立っていたいです」
元チームメートで同学年の千賀滉大投手(メッツ)も「本当にいいやつ」と表現する奥村の人柄。選手同士がリスペクトする尊い関係が、いつかどんな形でも、報われてほしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)