低迷するチームの中で奮闘ぶりが光っている。ソフトバンクの近藤健介外野手がバットで牽引している。8月に入って37打数15安打、4本塁打、15打点。打率を3割台に乗せて、8月15日現在で.304はパ・リーグ3位。67打点はパ・リーグ断トツで、18本塁打はリーグ2位タイと、その実力をいかんなく発揮している。
シーズンが進むにつれて打撃の状態は右肩上がりだ。シーズン開幕してからしばらくは打率2割台半ば。5月半ばには今季ワーストの打率.232まで打率が落ち込むなど、本来の姿とはほど遠かった。それが6月は月間打率.342、7月も同.343をマーク。8月に入ると、いよいよ本格化の兆しを見せ、10試合で4本塁打と量産態勢に入った。
これまでのバッティングと大きな違いを見せているのが、逆方向への長打が激増している点だ。7月26日のオリックス戦で放った今季13号本塁打からの6本塁打で逆方向の左翼へ運んだのが実に4本を数える。左中間に運ぶ力強い打球も多くなっており、近藤自身は「やってきたことが出来てきているのかなと」と現在の状態を受け止めている。
近藤の進化を表す数字がある。近藤自身が「意識している」という打球速度だ。ホークスでは今季から試合前の打撃練習でもケージ後ろにポータブル型の弾道計測システム「トラックマン」を設置し、練習中から打球速度や角度などを計測している。選手の状態などを把握するためで、ワールド・ベースボール・クラシックでの戦いを終えた近藤や周東佑京内野手らの提案によって導入されたものだ。
シーズン前半、近藤の打球速度は練習時と試合時で大きな差はなかった。それがここに来て、練習時よりも試合時の打球速度が遥かに速くなっているという。試合時には、逆方向でも170キロ前後の打球速度が計測され、それは柳田悠岐外野手でもなかなか出ない数値という。近藤は「ちゃんと捉えれば、ピッチャーのボールの方が弾きはいいので、しっかり捉えられている証拠かなと思います」と語る。
近藤の現在の状態について、長谷川勇也打撃コーチは「彼にとってイメージ通りになってきているんじゃないですか」と見ている。7月30日のロッテ戦で右膝を負傷し、DHでの出場が続いていた。同コーチは「足の状態が落ちてから少し打球が下がらないようにというか、外野の奥まで打球を飛ばすイメージで打っている。ちょっとフォローが大きくなったので、今回また新たな引き出しを得たんじゃないかな」と変化を感じている。
練習時に比べて試合時の打球速度が速くなっている点、そして逆方向に長打が出るようになっている点については「うまく力を逃さずにボールに伝えきれているからこそだと思う。無駄なく、ロスなくボールにバットの力を乗っけられているからかな」と長谷川コーチは言う。さらに「聞いてはいないんで、僕の勝手なイメージですけど」と前置きした上で、現在の近藤の好調ぶりを技術的な側面でこう分析した。
「キャンプの時は体幹主導で、手の介入が入らないようにして、体の回転を使って打つ感じだった。それがうまくいかなかったのか(今は)回るよりもしっかり(体が)閉じているなっていう感じです。バットにボールが当たっている時間、インパクトゾーンが長くなっているので、勝手にボールの下をバットが抜けていく形になっている。俗に言う“押し込み”と言われるものですけど、インパクトゾーンが長ければ長いほど、ボールの下を抜けていくんで、勝手に角度がつくんです。そこで力が抜けず、ロスなく伝えられているから、思っているよりも打球速度が出ているんじゃないかな、と思いますね」
試合を見ているファンもなんとなく、印象を抱いているかもしれない。近藤のバットにボールが“乗っている”時間がなんとなく長いな、と。長谷川コーチは「見ている人もそういう印象は持っていると思うけど、それを作り出すのって難しいんですよ。(近藤にとっては)イメージ通りなんじゃないですか」と、現在の打撃が近藤の理想に近い形になりつつあるのでは、と推測した。
移籍初年度の今季、近藤は長打を増やすべく打撃面での試行錯誤を繰り返してきた。序盤は苦戦を強いられていたものの、それも想定内。「そんなに変えようと思ってすぐ結果が出るとは思っていなかったですし、それが結果になってきている。バッティングに正解はないので、もっともっと上を目指して、というところだと思います」と、近藤自身は足元を見つめ直す。
近藤とのちょっとしたやり取りを明かしたのは長谷川コーチだ。「でもね『全部テラスなんですよね』って言っていたんで、彼なら今度は『あれをスタンドまで』っていう目標を立てるかもしれないですね」。常に打撃面での進化を求める“求道者”近藤健介。もっともっと凄い打者へと進化を遂げている真っ最中だ。