円陣で指示の途中にまさかの変顔…“本気でふざけた”増田珠 大真面目に語った意図とは

円陣で“変顔”をみせるソフトバンク・増田珠【写真:竹村岳】
円陣で“変顔”をみせるソフトバンク・増田珠【写真:竹村岳】

「ラストチャンスだと思っていた」…久々のスタメンに“危機感”も激白

 緊張感あふれる場で、なぜ“変顔”? ソフトバンクの増田珠内野手は、13日に行われた日本ハム戦(PayPayドーム)で「2番・右翼」で出場。4打数1安打1打点と、なんとか結果を残した。7回の適時打を「つないでもらったチャンスを絶対に生かそうと、気合を入れて打席に入りました」と振り返る。自分自身のためにも必死に戦った中、クスッと笑ってしまうようなシーンがあった。

 7月26日のオリックス戦(京セラドーム)以来のスタメン。3打席凡退して、7回の攻撃を迎えた。2死から甲斐拓也捕手が中前打で出塁。代打の野村大樹内野手は、ストレートの四球でチャンスを広げた。「その前の3打席がダメだったので、引きずりそうにもなったんですけど」。目の前の1球に集中することだけを考えた。初球を左前に運び、1点差に詰め寄る適時打となった。

「1点差にして、ギーさん(柳田悠岐外野手)とコンさん(近藤健介外野手)がいるので。そこでっていう気持ちでいきました。1球もストライクが入らず、(野村大が)四球で出た後だったので。絶対に投手はストライクが欲しいだろうと。高い球は振っていこうというバッティングで、ハセさん(長谷川勇也打撃コーチ)からもアドバイスがあったので。振れてよかったです」

 7回は、打線にとってもこの日一番のつながりを見せたシーンだった。4回を終えて、相手先発の上原の前に無失点。5回の攻撃前、長谷川コーチを中心にして円陣が組まれた。逆転を目指す展開の中で、増田は写真のように、歯を出して“変顔”……。コーチが指示を出している途中にもかかわらず、そうした理由は何だったのか。もちろん、本人は大真面目だ。

「長谷川コーチに円陣で『顔が暗い』って言われたので、そうしてただけです。リッチーとかもやっていましたし(笑)。暗くやっていても仕方ないので。盛り上げるしかない」

5回の攻撃前に組まれた円陣【写真:竹村岳】
5回の攻撃前に組まれた円陣【写真:竹村岳】

“顔が暗い”という言葉に、増田なりにすぐさま反応したというわけだ。長谷川コーチも「戦術的なところもありましたけど、やっぱり表情が暗いと思った。暗くもなりますけど、曇ったままプレーしても、いいプレーは出ないので」と思いを明かす。長谷川コーチは「みんなの顔はそんなに見ていなかった」というが、「どういう展開であれ、前向きにプレーしないと」と、増田がとった行動に手を叩いて評価した。チームの雰囲気を変えるため、増田なりに見せた“本気のおふざけ”だったのだ。

 増田はオープン戦中、適時打を放った塁上で、片手で拳を握り、もう片方の手のひらに擦るようなポーズを考案した。ラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)の「ペッパーミルパフォーマンス」にちなんだパフォーマンスで、「あちらがペッパーなら、こちらは“大根おろし”で、和風でいこうかと」と意図を語る。その際も「僕がやる時はあまり流行らない」と苦笑いしていたが、今回も「僕はウケるタイプではない。みんなにスルーされるんですけどね」と、その役回りすら受け入れて自虐的に笑っていた。

 久々のスタメンに「試合に出ると緊張するので、口数は減り気味になっちゃう」と自分のプレーにまだまだ必死。それでも、ベンチにいる時は誰よりも声を出し、チームメートが結果を出せば全身で喜びを表現している。長谷川コーチも「彼はそれが取り柄なんじゃないですか。チームの勝敗とか、雰囲気とかは気にせずに。ガンガン、変に空気なんて読まずにね。自分のプレーをすればいい」と背中を押す。チームの苦境の中でも、増田なりに何ができるのかを、考えている証だ。

「盛り上げることしか僕にもできないので。なんとか、暗い雰囲気にならないように。少しでもチームのムードを良くできるように、という気持ちでやっています。なんとか声を出していけたら」

 昨年8月、チームの主力が次々と新型コロナウイルスの感染で離脱。増田も、野村大や谷川原健太捕手らとチームを救い、藤本博史監督からも「筑後ホークス」と表現された。あれから、1年が経った。「もう『筑後ホークス』って呼ばれないようにって気持ちで。『僕もソフトバンクホークスの一員なんだ』って気持ちでやっています」と、ちょっぴりたくましくなった表情で語る。若鷹には、若鷹のプライドがある。

「ラストチャンスだと思っていた。ここで打てなかったら……というのは3日前からイメージしていました。辛抱して使ってくれた監督のおかげ。4打席もらえたので、それが大きかったと思います」。結果はもちろん、表情1つでも、1軍の戦力になりたいという気持ちを表現していく。全ての瞬間から気持ちがにじみ出ているから、増田珠を応援したくなる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)