自主トレをともにする大先輩は一体、どんな人柄なのか。ソフトバンクの渡邉陸捕手が背中を追うのは、中村晃外野手。そんな2人はこの夏、それぞれの球宴を過ごした。渡邉陸は18日に富山での「フレッシュ・オールスター」に参加し、中村晃は20日にマツダスタジアムで行われたオールスターの第2戦に出場。孤高のイメージもある師匠の姿は、弟子にとっていつもこの上ない手本になっている。
渡邉陸はウエスタン・リーグ代表の「6番・捕手」としてフレッシュ球宴に先発出場。1打数無安打に終わったものの「同級生も多かったので楽しかったです。バッティングのことも聞いたりして」とちょっぴり成長して福岡に帰ってきた。
中村晃にとっては、選手間投票で5年ぶりに出場した夢舞台だった。第2戦で「2番・一塁」で出場し、3打数1安打としっかりと結果を残した。リーグ戦が再開し、11連敗を喫した23日のロッテ戦後に行われた決起集会の提案者にもなった。チームを牽引する、紛れもないチームリーダーの1人だ。
渡邉陸は2018年の育成ドラフト1位でホークスに入団した。2021年8月に支配下登録され、その年のオフに中村晃の自主トレに参加を願い出た。「僕の中で晃さんのバッティングは打席の理想像。ボール球も振らないし、甘い球をしっかりと打つ。そういうところを目指してくて“入門”しました」。当時はまだ1軍出場もなく、中村晃とはほぼ話したこともなかった。トレーナーから電話番号を教えてもらって、勇気を持って電話をかけた。
「めちゃくちゃ緊張しました。電話でお願いをしたんですけど。『自主トレをお願いしたいんですけど、いいですか』ってお伝えして。そこで(了解を)してもらいました」
思い切って飛び込んだ。2年連続で参加した自主トレで、憧れの先輩との距離感はグッと近づいた。中村晃といえばファンの中でも、多くを語らない、クールな印象があるだろう。渡邉陸も「どんな人だろう……。僕が語ってもいいんですか?」と恐縮しながら、本人なりの視点で人柄を語ってくれた。
「あまり晃さんから僕とかに対して、ガツガツと言ってくることはないですね。『こうしろ』『ああしろ』っていうのはなくて、聞いたら教えてくれます。こっちからいけば、心を開いてくれるみたいな、そんな感じです。見た目はそう(寡黙)ですけど、話せば意外と面白いですよ」
昨オフに福岡市内で行った自主トレは練習場所の近くのホテルで全員で寝泊まりをした。夕方までのトレーニングを終えれば、ホテルで夕食を共にする。「いろいろ話します。野球の話もしたり、それぞれの球団の話をしたり。プライベートのこととかも多くて、そんな堅苦しい話はしないです」と内容を明かす。聞きたい技術面の話はグラウンドで済ませて、ホテルに戻ればリラックスした会話が多いようだ。
中村晃は今季ここまで87試合に出場して打率.282。安定して3割前後の打率を残して、チームに貢献している。渡邉陸も「フォームとかが変わったのはわかりますけど、何が変わったんですかね」という。自主トレ中に「ダメだったら終わりという覚悟でやっています」と2023年への意気込みを語っていた中村晃。その力強い思いは、後輩にもしっかりと伝わっていた。
渡邉陸が明かす。
「去年よりすごくバットを振っていたと思います。借りている場所の練習時間が15時までだったんです。午前中にランニングとか守備をして、昼からがバッティングなんですけど。1時間半くらい打って、そこから自由練習なんですけど、晃さんは特打じゃないですけど、すごく振っているなっていうのは確かに思っていました」
今季ここまで1軍出場のない渡邉陸。緊張感あふれる1軍の舞台で戦っている中村晃には、なかなか連絡できずにいたという。そんな後輩を気にかけたのか、7月上旬、ふいに中村晃から連絡が来た。「『生きてるか?』『元気か』みたいな(笑)。『元気にやってます!』って(返事しました)」。多くの言葉を交わすことはなかったようだが、先輩の優しさが嬉しかった。
通算1345安打のホークスが誇るヒットマン。今も自分の中で生きている教えとは、どんなものなのか。渡邉陸は「技術的なところはちょこちょこ変わっていくので」としながら「取り組み的な部分です」と明かす。先輩の背中から学んできたことは、野球に対するまっすぐな姿勢だ。
「バッティングだけじゃなくて、準備することだったりってところは今も継続しています。次カードの相手の映像を見たり、試合前の体の準備とか。練習量とかもそうですけど、試合で結果を出すための準備や、怪我をしないためのストレッチだったり。グラウンドにつながるように、というところですね」
先輩と同じ舞台を目指して、今はしっかりと鍛錬を積むだけ。5年目を過ごす渡邉陸を“晃さん”の存在が突き動かしてくれる。