「順番待ちじゃダメ」長谷川勇也コーチが若手に呈する苦言 求めたいスタメンを奪う姿勢

ソフトバンク・長谷川勇也1軍打撃コーチ【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・長谷川勇也1軍打撃コーチ【写真:藤浦一都】

前半戦は3位…“日替わり”で代わるメンバーの状況に「もったいない」

 誰よりも真っ直ぐにレギュラーを目指してきたから、説得力のある言葉だった。17日のオリックス戦(PayPayドーム)に0-3で敗れ、9連敗を喫したソフトバンク。43勝37敗2分けの3位で終えた前半戦を振り返り、長谷川勇也打撃コーチが「もったいない」と表現するのが、なかなかスタメンを奪い切れずにいる野手の状況についてだった。

 柳田悠岐外野手や近藤健介外野手、甲斐拓也捕手らレギュラーとしてグラウンドに立つ選手もいる一方で、牧原大成内野手が二塁と中堅を守ることで空くポジションに、“日替わり”のような形で上林誠知外野手や野村勇内野手らがスタメンを託されていた。藤本博史監督は7月に入ってからも「いつも言うように三森、野村勇、川瀬、上林、周東というところで日替わりになるかもしれない」と話していた。

 この状況を「もったいない」と言うのが、長谷川コーチだ。現役時代は2006年ドラフト5位で入団して通算1108安打を放った。圧倒的な練習量と、意地とプライドで自分だけの居場所を築き上げた打撃職人だった。相手投手との相性や、コンディションによって変化するスタメン。日替わりになっている選手に対して、こう話した。

「現状を彼らがどう思っているか、ですよね。日替わりというか、川瀬、三森がいったり、勇(野村)や上林がいったり。でも、ローテーションで“順番待ち”していたらダメだと思うので。それをどう考えるか、ですね。『今日は俺か』『今日は俺じゃないのか』じゃなくて。今日結果を出しに行けば、次の日も結果を出せる場に立てる。それを続けて行けば、ずっと固められるじゃないですか」

 待つのではなく、奪いに行くことが大事だと強調した。選手と言葉を交わすコーチとはいえ、自分の立ち位置や現状をどう捉えているのか。核心をついたような部分まではなかなか把握できない。長谷川コーチは「それだけの気持ちが(あるのか)どうかっていうのはわからないですね。あんまりなさそうですけどね」と続けた。

 長谷川コーチが「タニだって、そうですよね」と切り出す。例に挙げたのが7月4日の日本ハム戦(PayPayドーム)だ。谷川原健太捕手が5回に代打で出場。6回からマスクも被ったが、2打数無安打に終わった。試合における5回までの流れもあったが、谷川原がリードした6回以降も4イニングで4失点。もちろん、バッテリーの起用は管轄外。伝えたいのは、自分の定位置への貪欲さだった。

「早めにマスクをかぶって。次の日に鈴木ってわかっているのに、そのゲームめちゃくちゃ頑張って打って、マスクも頑張っていたら、次の日も甲斐から奪い取れるチャンスもあったかもしれない。今日もし打ったら、明日もいけるかもしれないっていう」

 5日の日本ハムの先発はアンダースローの鈴木。ホークスは左打者を8人並べて鈴木から5点を奪って攻略。先発出場した唯一の右打者は甲斐だった。4日に結果を出せば、5日のスタメンもあり得たのでは、と長谷川コーチは言う。打てるか打てないかは結果論であり、言及したいのはそこではない。その瞬間に対して、明確に「チャンス」だという意識を持っていたかどうかだ。「チャンスを自分から遠ざけていこうとするのはね」と言及した。

 他の例もある。柳町達外野手が左投手に対してスタメンを外れた時。長谷川コーチは「左投手に対して、どれくらい自分が結果を出しにいこうとしているのか、実際見えない。打席の中の姿を見たら『絶対に何か、感覚を見つけにいってやろう』っていうところは、正直、薄いです。もっとできますよ」と話していた。対左投手の数字が良くないのであれば、その上でどうするのかという姿勢が伝わってこなかったと言う。

 コーチはベンチで試合の戦況を見守り、時には指示を出す。長谷川コーチの言葉からわかるのは、ベンチで出番を待つ選手の姿をコーチはハッキリと見ているということだ。「その時間をちゃんと使って『あ、やってんだな』って思ったら、そういう選手の方が信頼できますよね。行き当たりばったりでやっているやつが“ココイチ”って場面でいってもね」。結果以上の方法はないが、姿勢も首脳陣に「使いたい」と思ってもらうための手段。そして、それは、信頼へとつながっていくのだ。

 必ずしも結果を出せば、次のチャンスが確約されるわけではない。ただ、少なくとも、長谷川コーチはそうしたチャンスの“貪欲さ”を感じ、汲み取ろうとしている。選手は日々、予習と復習を繰り返して最善の準備をしなければならない。後悔したくないのは選手はもちろん、コーチだって同じだ。「これだけやってきて、突き詰めて、一生懸命やっているのなら仕方ないって思えるし、そいつに託そうって思うからね」。誰よりも練習して、誰よりも野球と向き合ってきた男の言葉は、若鷹たちにどう響くのか。

(竹村岳 / Gaku Takemura)