鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、周東佑京選手の「7月前編」です。今回のテーマは「レギュラー」です。6月の先発出場は3試合に終わりました。ベンチスタートが続くもどかしい心境と、絶対に見失わないレギュラーへの思いに迫りました。後編は15日(土)に掲載予定。チームを勝たせた“神走塁”について、話を聞きました。
周東佑京がベンチに控えていることが、どれだけ相手にとって脅威なのかがわかる2試合だった。6月28日の楽天戦(PayPayドーム)。8回無死一塁から代走で出場すると、その後1死満塁に。三走の周東は、相手のわずかな隙を見逃すことなく暴投で決勝のホームを踏んだ。「体が勝手に反応して『行っちゃえ』と思って」と汗を拭う。
7月1日の西武戦(ベルーナドーム)では、1点を追う8回無死に代走で出場。その後、1死二、三塁となり野村大樹内野手の浅い中飛でタッチアップで生還した。「勝負をかけるところかなと思ったので、アウトでもセーフでも行こうと思いました」。“イチかバチか”で突っ込んだ中でも、捕手のタッチが一番遠いホームベースの角を狙ってヘッドスライディング。スピード面でも技術面でも、周東だからできた走塁だった。
チームを勝たせた2度の“神走塁”。ホークスファンに限らず、球界全体に“代走・周東”の凄さを改めて示した。ただ、本人の胸中は「しんどいですよ」。プロである以上、与えられた役割を全力でこなすのは当然だが、表情が浮かないのは明確な目標があるから。目指し続けているのは、あくまでも“スタメンで試合に出る”ことだ。
「スタメンで出るやりがいもあるし、プロに入った時からそこはずっと目指していて。代走で終わりたくないっていうのをずっと何年も思っているところ。そこを目指さなくなったら終わりかなって、自分自身でも『代走でいいや』と思うようになったら終わりだとも思います」
今季はここまで62試合に出場して打率.183。6月は交流戦期間中で指名打者を使わない試合もあった影響で、スタメンはわずか3試合だけ。6月10日の巨人戦(PayPayドーム)以降はベンチスタートが続く。「仕方ないんですけどね。打てないから。監督もヘッドも常に『やっぱり頭からいってほしい』と言っていただけますし。現状、そんな打てていないし、周りが打てているのもあって」と現状を受け入れるしかない。
走塁において、周東の“右に出る”選手を探す方が難しいだろう。球界で突出した存在で、走塁で貢献したとしても「打つ方の率もそうですけど、スタメンで出ていればもうちょっと走れたと思うところもある」と自分の数字に納得はない。「『バッティングの方をもっとどうにか……』というのはヘッド、監督にも言ってもらっている」。リーグ1位の18盗塁を決めていても、あくまでも目標はレギュラーだ。
「盗塁王を取った時(2020年に50盗塁)も、スタメンで出ていたからあれだけの数を走れた。代走で出ているうちは無理だと思っている。控えでタイトルを取ってもすごいなって思いますけど『価値ってあるのかな』って自分自身でも思うこともある」
代走での出場が続けば当然、打席の間隔も空いてしまう。試合での結果以上に自分の“モヤモヤ”を晴らし、取り組みが間違っていないことを確認できる方法はない。もどかしい思いも抱えている。「(チャンスを)待っていても何も状況は変わらない。本当にどうにかしないとって感じです。自分から動いていかないと、どうにもできない」と必死に打開策を探している。
長谷川勇也打撃コーチは、周東の打撃について「自分の感覚が定まっていない。何が良くて何が悪いのか、自分自身でもわかりきっていない」と表現していた。本人も「周りの人も『もっとこうした方がいい』と思っていると思うし、自分の中でも……。練習でやっていることが試合で表現できなかったり。『今年はこうやろう』っていう1本の軸も探しているというか」と話す。正解のない打撃の領域で、もがき、苦しんでいる。
ベンチスタートが続く中でも、前は向いている。今季の周東は特に、守備からベンチに帰ってくる選手を真っ先に出迎え、サヨナラ打の時よりは誰よりも喜んでいる印象がある。「しんどいですよ、試合に出られないし。しんどいですけど、明日は来るし、時間は待ってくれない。そういう時間を過ごしている間にシーズンが終わる気がする」。突き動かす思いは、憧れてきた先輩の背中だ。
「松田さん(巨人、松田宣浩内野手)とかも去年試合に出られなかった状況で、僕もそうですけど周りの選手に声をかけていたり、慶三さん(楽天の川島慶三2軍打撃コーチ)もグラウンドに出ている僕をベンチから見て『もっとこうした方がいいんじゃない?』って話をしてくれた。僕はそんな選手ではないと思いますけど、若い選手が出ているので、話ができたらいいなっていう」
自分がグラウンドに立つ時は、誰かが先発を外れていた。今は自分がその気持ちを味わっている。簡単ではないものの、今までの先輩の偉大さを改めて感じている。自分が同じことをできるのも、目指すものが1つだからだ。「やっぱりチームの雰囲気を上げていくというか、自分が出ていないから“もういいや”って、1人違う方向を向くのもおかしいじゃないですか。全員が優勝したい、勝ちたいって思わないとできないと思うので」。