【連載・甲斐拓也】栗山英樹前監督のススメと「読書」の縁 考え方が変わった1冊の本

侍ジャパンを率いた栗山英樹監督(右)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】
侍ジャパンを率いた栗山英樹監督(右)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】

「今の苦しさが全てじゃないし、人に八つ当たりしたところで何も残らないなって」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「7月後編」です。今回のテーマは「栗山監督と読書」。甲斐選手が自信を成長させてくれた読書の時間と感銘を受けた本、そして、WBCで野球日本代表「侍ジャパン」を世界一に導いた栗山英樹前監督との縁について明かします。

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 シーズンも折り返し地点を過ぎた。今季ここまで75試合を戦い、ホークスはパ・リーグの首位に立つ。その原動力の1人となっているのが、正捕手の甲斐だ。ここまで73試合でマスクを被り、打撃面でも打率.221、5本塁打25打点と大不振に終わった昨季とは異なる姿を見せている。チームに不可欠な存在で、後半戦での奮闘にも期待がかかる。

 そんな甲斐が忙しない日々の中で、時に時間を割くのが「読書」だ。練習だけでなく、相手打者の分析や投手とのミーティングなど、選手の中でも捕手は時間に追われて過ごす。それでも甲斐は「本を読むのは嫌いではないですね。シーズン中でも読むときは読みますね。本を読みたくなる時っていうのもあるんで」と言う。
 
 これまで読んだ本の中で感銘を受けたのが故・稲盛和夫氏の「生き方」。京セラ、KDDIを創業し、日本航空を再建した経営者の人生論が記された名著で、甲斐はこう語る。

「結構多くの人が読んでいると思うんですけど、すっと心の中に入ってきました。何の目的のために生きてるのかっていう話で、何のために生まれて、何のために生きて、でも結局、人は死ぬ、と。そうなったときに何を残すのか、と」

「去年読んだんですけど、メンタル的に苦しい部分があったんです。でも、これを読んで、その苦しさっていうのは本当に小さいものだなって思えた部分がある。今の苦しさが全てじゃないし、人に八つ当たりしたところで何も残らないなって思ったりもした。どうやって人に何かを与えるか、っていうのが大事なんだなって思えた」

 実はこの稲盛和夫氏の「生き方」を甲斐に勧めたのが他ならぬ栗山前監督だった。まだ栗山前監督が日本ハムで指揮を執っていた2021年のことだ。栗山前監督の自著「稚心を去る」を読んでいた甲斐が、栗山監督に思い切って話しかけた。「お勧めの本があれば、ぜひ教えていただけませんか?」。

 読書家でも知られる栗山監督は日本ハム時代、チームに加わる新人たちに「小さな人生論」という本を渡していたという。この話を甲斐は伝え聞いたといい「『稚心を去る』を買って読んで、面白かったんですよ。栗山監督ってこういう人なんだ、と。その話を聞いて、めちゃくちゃ興味が湧いて、栗山さんが読んでいる本を読んでみたいと思ったんです」。甲斐からのお願いに栗山前監督は「わかった、今度送っておくね」と快諾してくれた。

 栗山前監督はその年で日本ハムの監督を退任、侍ジャパンの監督に就任した。甲斐は“栗山ジャパン”の発足当初からメンバーに選出された。“あの時”交わした約束が果たされたのは2022年になってから。「遅くなってごめん」と、甲斐のもとに栗山前監督から10冊ほどの本が届いた。その中にあった1冊が稲盛氏の「生き方」だった。
 
 周知の通り、栗山前監督と甲斐は侍ジャパンで3度目のWBC優勝に大きく貢献した。つい先日、また甲斐のもとには新たに10冊ほどの本が届いた。「(送られてくる本は)野球ではなく、自己啓発だったり、いろんな種類があるんです。今回は小説みたいなものもありました」。まだじっくりとは目を通せていないが、時間を見つけて読み漁るつもりだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)