松本裕樹が明かす大谷翔平とのつながり チーム全体にあふれていた“打倒・大谷”の空気

エンゼルス・大谷翔平(左)とソフトバンク・松本裕樹【写真:ロイター、荒川祐史】
エンゼルス・大谷翔平(左)とソフトバンク・松本裕樹【写真:ロイター、荒川祐史】

「『大谷さんを打って甲子園に行く』というのがチームの目標だった」

 マウンド上で表情を変えることなくひょうひょうと投げる。ポーカーフェースの松本裕樹投手は表情を変えることなく「一応、認識はしてもらっています」と、エンゼルスの大谷翔平投手とのつながりを明かす。「スーパースターですよ」と表現する大谷の存在。高校時代に対戦したことのある2人。松本裕の目線で当時を振り返ってもらった。

 今季の大谷はここまで目覚ましい活躍を見せている。6月27日(日本時間28日)のホワイトソックス戦では投打同時出場し、打っては3打数3安打2本塁打、投げても7回途中4安打1失点と大活躍。7月2日(同3日)のダイヤモンドバックス戦でも2試合ぶりの本塁打を放ち、ここまで打者として打率.306、31本塁打68打点、投手として7勝3敗、防御率3.02とまさに「スーパースター」な活躍を見せ続けており、松本裕も「(野球を)やっていれば、見ますよ」とその動向をチェックしている。

 松本裕は神奈川・横浜市の出身。高校を進学する際には「岩手県だからとかではなく、いろんなつながりもあって。寮にも入ってみたかった」と、岩手県の盛岡大附高に進んだ。1年の春からベンチ入りすると、夏には背番号11でベンチ入り。「最後の大会にかけていた人もいた。そこに割って入れたのは貴重な経験でした」と、先輩の思いも背負って初めての夏を戦った。

 松本裕が1年生だった2012年、大谷は3年生で、夏は甲子園を目指す最後のチャンスだった。準決勝の一関学院戦で、当時の高校生では史上初となる時速160キロを計時した。高校球界に飛び込む前から、松本裕にとっても「すごい人がいるというのはずっと聞いていた。今とは比べ物にならないと思いますけど、その時からずば抜けていたと思います」と言うほどの存在だった。

 その年の岩手県大会の決勝戦。大谷のいる花巻東高と対戦したのが盛岡大附高だった。背番号「11」を着け、1年生でただ1人ベンチ入りしていた松本裕は「僕はバット引きをしていました」と懐かしそうに振り返る。11年も前のことで、決勝戦の熱気は「あんまり覚えていない」というが、5-3で勝って甲子園への切符をつかんだ一戦で、チーム全体に“打倒大谷”の空気が流れていたことはハッキリと覚えている。

「1年だったので、そこまでチームとしての取り組みとかはわからなかったですけど、秋に負けた時から『大谷さんを打って甲子園に行く』というのがチームの目標だったと思う。そこに向けてずっと春から夏まで、というところで先輩たちはやっていました」

「とにかく近い距離から速い球を、という練習はずっとしていました。バッティングのチームではなかったんですけど、大谷さんを打つというところでバッティングに力を入れてやっていたというのは聞いています。(1年夏の甲子園の思い出は)何もしていないですよ。甲子園練習のシートノックでセカンドを守ったくらいですね。練習で内野をしたりしていたので」

 秋になりドラフト会議が近づくと、大谷は1度、メジャーリーグへの挑戦を表明した。その上で日本ハムが指名し、報道も“大谷一色”となったが、松本裕は「テレビとかがなかったので、見ていなかったと思います。食堂にしかテレビもなくて、ケータイもなかったので。情報もなかった感じです」と熱気を感じ取れずにいたという。寮生活だった高校の日々。自分自身の成長のために、白球を追いかけていた。

 その後、成長を続けて高校通算54本塁打を放つ。自身がドラフト指名された2014年、大谷は日本ハムで史上初の2桁勝利と2桁本塁打を達成した。大谷の影響もあって、松本裕自身も二刀流として注目を集めていたが、プロ入り当初から投手1本で勝負する考えでいた。

「スケールのデカさは全然違った。大谷さんはどっちでもトップレベルで、僕はどっちもまだまだだった。それならどっちかに1本という考えでした」と当時を振り返る。セットアッパーとして欠かせない存在になっている現在を思えば、この選択に何の間違いもなかったはずだ。

「自分のことをピッチャーだと思ってやってきたのが大きかった。(打者の方も)そんなにってわけではないですけど、波があったりして悩むことは多かったです」

 ドラフト1位で飛び込んだプロの世界も今季が9年目。「ずっと野球をやっていた記憶です」という岩手県は今でも自分のルーツだ。“同郷”ということで、大谷とは「挨拶とかはします。ファイターズの時とか、一応、認識してもらっています」と面識がある。今では海を渡った岩手の大先輩。1人の選手として少しでも近づいていけるように、2023年シーズンを松本裕も戦っている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)