「全く違う」NPBと独立Lでの指導 寺原隼人3軍投手コーチが語る理念と4軍との線引き

ソフトバンク・寺原隼人3軍投手コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・寺原隼人3軍投手コーチ【写真:竹村岳】

3軍での選手のステップは「試合をこなしながら成長するところ」

 今季からNPBで指導者としてのキャリアをスタートさせた。ソフトバンクの寺原隼人3軍投手コーチは、1軍を目指す若鷹たちと向き合っている。独立リーグでの指導者の経験はあるが、NPBでの指導は「全く違います」という。「選手たちは育成から支配下になりたいがためにやっている。それって試合で結果を残すか、技術的に成長するしかない」と明確な道しるべを持って日々を過ごしている。

 今季からホークスは4軍制を新設した。4軍の投手の練習は毎日15分間のキャッチボールからスタートする。基本から身につけるべき選手が多くいる中で、寺原コーチは3軍について「試合が多いので、試合をこなしながら成長するというところですね」と挙げる。4軍が練習の中で形を身につける段階なら、3軍はそれを試合で表現する段階だという。

 昨季なら3軍戦は140試合が組まれ、今年は3軍と4軍を合わせて229試合が予定されている。1軍のレギュラーシーズンは143試合だが、1年間を戦い抜く体力は必要不可欠。「それ(試合で投げ続けること)ができなければ4軍に行っていると思うので。もちろん、試合で投げる体力がある選手、そういう選手が3軍にいる」と4軍との線引きを示す。

 寺原コーチは現役時代は通算73勝を挙げた。2001年ドラフト1位で宮崎の日南学園高からホークスに入団。トレードやFAなどでNPBで4球団を渡り歩いた。2019年にヤクルトで現役を引退すると、2020年から2年間、琉球ブルーオーシャンズで投手コーチを務めた。2022年は北九州下関フェニックスで選手兼投手コーチに就くなど、多くの経験を経た野球人生だ。

「全く違います」という独立リーグとNPBの指導をこう比較する。

「独立リーグはNPBに行かせるためにやりますので、変な言い方をすれば、1年間で怪我してもいいと思ってやらないといけない。こっち(NPB)は怪我をさせてはダメだし、やり方もアプローチも全く違います。向こう(独立)なら、言い方は悪いかもしれないですけど、雑に厳しくいけるというか」

「ウエートトレーニングでも『やれ』って。それで怪我をしても仕方ないって、それくらいの勢いでした。このままやらなかったら、プロには行けないんだから、それに賭けるしかないんだから『やれ』っていうしかなかったです。それで球速が上がればいいし、そこまでやってプロに行けなかったら仕方ない。それくらい割り切った感じが独立でした」

 ドラフト会議で指名されるには、若さや将来性も大きな要素の1つ。独立リーグという環境から1年に1回しかないチャンスを掴むためには、オーバーワーク気味な練習をしてでも、能力を底上げしないといけない。寺原コーチも3年間の独立リーグの経験を「きつかったですけど、その分楽しさもあった。その環境の中で頑張ろうとしているのを見ると、プロに行ってほしいという気持ちになる」と懐かしそうに振り返る。

 とはいえ、指導法は押し付けるようなものではない。「『やれやれ』とか『走れ走れ』とかではないです。こういうのをやった方がいいと思うよ、とか。強制的に『やれ』っていうのではなくて、僕はこういうことをやったことがあるよ、とか」。寺原コーチの引き出しを選手に示し、最終的にやると決めるのは選手自身。「やるなら徹底しないといけない」。NPBという夢を掴みたいのなら、どこまでも選手に付き合って取り組みをともにしてきた。

 育成から支配下を目指すことと、独立からNPB入りを目指すこと。支配下昇格とドラフト指名、形は違えど、通過点があるという意味では同じだが、ここでも寺原コーチは双方を比較してこう話す。

「まだ若いので似ていますけど、独立の子は20代中盤。この1年で頑張らないとドラフトにはかからない年齢なんです。でも、この子たち(3軍、4軍の選手)はまだ大学生なんです、簡単にいえば。20代前半の子だから体も大きくなる途中だし、ここにはちゃんと専門家がいる。トレーニングコーチや食事、長期的な目で見られるけど、独立の子たちは短期の目で見ないといけないから」

 どんな選手でも、1軍の戦力になるという最終的な目標は同じ。遠く、険しい道だからこそ、寺原コーチは選手に寄り添いながら、ホークスのために自分の経験を還元している。

(竹村岳 / Gaku Takemura)