大声援の中でも聞こえた大きな声…大津亮介を奮い立たせた斉藤和巳コーチのベンチからの言葉

ベンチで会話するソフトバンク・斉藤和巳投手コーチ(左)と大津亮介【写真:荒川祐史】
ベンチで会話するソフトバンク・斉藤和巳投手コーチ(左)と大津亮介【写真:荒川祐史】

10日の巨人戦で1回2失点で悔し涙…中3日でやってきた“リベンジ”のチャンス

 悔し涙を流してから、まだ3日しか経っていなかった。やり返すチャンスがやってきた。ソフトバンクが5-1で勝利した13日のヤクルト戦(神宮)。8回に登板した大津亮介投手が1回を無失点に封じた。「気合が入りました。緊張しました、久々に」。ピンチを迎えながらも、ベンチからの斉藤和巳投手コーチの言葉が背中を押してくれた。

 大津の前回登板は10日の巨人戦(PayPayドーム)。2死満塁から梶谷に右前2点打を許すと、右翼の柳町達外野手からのバックホームは捕手の頭上を高く越えた。「打たれたことが悔しくて、頭が回っていなかったです。悔しいのが勝っちゃって、体が動かなかったです」。カバーリングにも遅れてしまい、ベンチでは悔し涙を流した。肩を落とし、斉藤和コーチや周東佑京内野手にも励まされた。

 自分のためにもチームのためにもこの日の登板は重要だった。1死から山田に左中間フェンス直撃の二塁打を許す。2死二塁で、6回に2号ソロを放っていた青木を迎えた。初球は内角への厳しい直球。青木は下半身から崩れるように避け、ヤクルトベンチからはスタッフが飛び出すほど。大津も帽子を脱いだが、2球目の外角球もボールとなった。ここでベンチの斉藤和コーチから、ファンの声援にもかき消されないほど大きな声が飛んだ。

「遠慮するなぁ!」

 NPB通算1907安打、MLB通算774安打のヤクルトが生んだスーパースター。だが勝負の世界である以上、対等な1人の選手だ。気持ちで負けることだけは絶対にしてほしくなかった。その後、フルカウントとなり6球目。152キロの直球で中飛に抑えた。「最後の真っ直ぐも確実に張られているなと思った中で、勝負ができた」。巨人戦では遅れたホームへのカバーリングもしっかりと向かい「いきました」と笑顔で振り返った。

 斉藤和コーチの言葉は大津も「聞こえていました」という。ルーキー右腕は青木という大打者にリスペクトを払いながら、抑えるためにも「インコースのボール球はOK。それくらいの気持ちで行きました」と汗を拭った。斉藤和コーチも「遠慮しなくても、当たっているわけじゃないんやから。当たったら帽子を取って謝らないといけないけど、当たっていないからね。謝る必要ないよ」とうなずく。伝え続けてきた勝負する勇気が、しっかりと結果につながった。

 悔し涙を流した3日後の登板。6月は5試合に登板して防御率4.50で大津自身も「なんとしても評価を戻すというか、そういう大事な日だったので。抑えられて良かったです」と拳を握った。斉藤和コーチも「ゼロに抑えてくれて良かった。少しずつ自信をつけていってくれたら」。ここまでの頑張りは誰もが評価している。ルーキーらしく前だけを見て、どんどん成長していってほしいのが願いだ。

 斉藤和コーチが貫こうとしている姿勢も、勝負する勇気も、確実に選手を支えている。「1本打たれましたけど、またイチから頑張っていきます」と大津。そう話す表情にはもちろん、涙はない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)