右飛で一塁からタッチアップ「特別なプレーではない」 周東佑京ならではの速さと準備

右飛で二塁へタッチアップを決めたソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
右飛で二塁へタッチアップを決めたソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

7回無死一塁から代走で出場…今宮健太の2ラン呼ぶ好走塁に本人の表情は

 欠かさぬ準備と持ち味への自信が凝縮されたプレーだった。ソフトバンクは13日のヤクルト戦(神宮)に5-1で勝利した。7回無死一塁で代走で登場したのが周東佑京内野手だった。中村晃外野手の右飛で一塁から二塁へタッチアップを決め、スタンドのファンの驚きを誘った。結果的に今宮健太内野手の3号2ランで4点目のホームを踏み「良かったです」と振り返った。

 初回に中村晃が先頭打者弾、5回には近藤健介外野手が9号2ランを放ってリードを奪った。2点をリードしたまま迎えた7回だった。先頭の代打・野村大樹内野手が投手を強襲する内野安打で出塁。すぐさま代走として送られたのが周東だった。マウンドには左腕の山本。何度も牽制球を投げられ、二盗のスタートを切れずにいた。

 3球目を捉えた中村晃の打球はサンタナが守る右翼へ。ウォーニングゾーンとの境界部分まで飛んだ深い飛球を見ると、周東はすぐさま一塁に帰塁。スタートを切って悠々と二塁を陥れた。リーグトップの15盗塁を決め、3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも選出されるなど球界屈指の俊足の持ち主は、どんな準備をして、二塁へ迷うことなくスタートを切ったのか。

「(二盗で)走れたらいいなと思っていたんですけど、無理だったので。タッチアップは行けるというか、スタートを切って危なかったら止まればいいし。そんなにギリギリでもなかったので、そのまま行きました」

 この時点で左翼は青木、中堅は内山だった。当然、外野手が誰であるかも把握しておく必要があるプレー。周東も「もちろんわかっていました」と振り返る。サンタナの捕球姿勢についても「体勢を見て、そんなにいい体勢で入っていなかったのでいけたかなという感じです」。結果的には余裕でセーフだったが、1つ1つの準備が生んだプレーだ。

 一塁から二塁のタッチアップであるため、三塁を狙う時のように二塁の手前で大きく“膨らむ”必要はない。周東は「単純な速さで行きました」と語り、技術的なことよりも、スピードそのものが生きたプレーだった。一塁ランナーコーチの松山秀明内野守備走塁コーチも「全然、彼はできる能力を持っているので。大きかったですね」と手を叩く。周東の走塁能力と勇気が詰まったプレーだ。

「彼なら『タッチアップ』って言った瞬間に僕も『GO』と言ってしまう。本人もそのつもりだったし、あそこで本当は盗塁したかったんですけど、なかなか簡単に盗塁させてもらえないので。あれで二塁に行けたなら盗塁したのと一緒。そういう意味でも大きいプレーでした」

「他の選手ならもっとタイミングがギリギリになるんですけどね。最初の判断と、迷わずに行っているので、最初から。そういうところの判断は素晴らしいですよね」

 松山コーチはこのように語り、サンタナの打球処理について「向こうもそんなに隙はなかったと思う」と振り返る。言い換えれば、最善のプレーをされても、周東は悠々と二塁にまで到達してみせたということ。松山コーチは打球が飛んだ瞬間に「タッチアップ! タッチアップ!」と声にも出したといい「ちょっとした間合いもあったので。良かったです」と、成功をともに喜んでいた。

 周東自身は「べつに特別なプレーではないと思いますけど」と当然のような表情で話す。本人は謙遜しても、チームの連敗ストップにも繋がったのだから大きすぎるプレーだ。単純に、足が速いだけではない。準備を欠かさない姿勢と、試合における状況判断まで一流だから、周東の走塁技術は球界屈指だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)