“苦手”の左投手から2安打…柳町達が明かす胸中 長谷川勇也コーチが重ねる若かりし頃

ソフトバンク・柳町達【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・柳町達【写真:荒川祐史】

柳町は「もっと自分本位でいい」…長谷川コーチが勝敗に責任を感じ始めた時期は

■巨人 10ー6 ソフトバンク(10日・PayPayドーム)

 課題である左投手から、快音を響かせた。ソフトバンクは10日、本拠地PayPayドームでの巨人戦に6-10で敗れた。打線は12安打6得点と奮起し、中でも柳町達外野手が放った2安打に価値があった。「結果的に全部左でしたけど。どうやったら打てるのか試行錯誤しながら行きました。いいアプローチができたことが一番だったと思います」と柳町自身は汗を拭い、長谷川勇也打撃コーチは自身の若手時代と姿を重ねて柳町に「打つしかない」と真っ直ぐに言った。

 まずは2回2死、右前打でチャンスを作る。4回無死では空振り三振に終わったが、6回無死で放った中飛はヒット性の鋭いライナーだった。8回無死でも三遊間を抜いていく左前打。今村、大江、高梨、中川といずれも異なる左投手と対峙し「違う投手でしたけど、サイド気味の投手だったので。スライダーか真っ直ぐのどっちかに狙いを絞って、なんとか打てたのはよかった」と内容を振り返る。

 試合前の時点で左投手に対して15打数2安打、打率.133。最近では相手先発がサウスポーなら、野村大樹内野手や正木智也外野手が先発に名を連ねることもあった。「ずっと競争なので、変わらず。出たところでやるしかないです」と競争の渦中にいることはしっかりと受け止めている。柳町自身、左投手に対してどんな意識を持っていたのか。

「苦手というよりは、打ち方が良くなかったと思います。アプローチの仕方とかですね。単純に前の壁が崩れてしまっていたので、それが一番の原因かなと思っていました」

 ベンチで見守っていた長谷川コーチにも打席の内容を語ってもらった。

「今村投手はもともとプレートの三塁側や中央を使ったりする。鋭角じゃない、角度の緩い投手はこれまでも打てていたので。鋭角で角度が厳しくなってきた球に対してはどうしても下手だったんですけど、今日は高梨投手からもレフト前。あのバッティングができれば、もうだいたいの左投手は対応できると思います」

 この日の巨人はブルペンデーだった。結果的に代打は送らず、4度も異なる左投手と対戦させたことについて「得点圏にいたりしたら変わったかもしれないですけど、今日は試合の流れ上(代打を)あとで取っておきたかった」と説明。「そういうチャンスで打っていくしかないんですよね、本当に。代えられないというチャンスで、左投手をひたすら打っていく」と柳町に歩んでほしい道筋を語る。

 長谷川コーチの目から見ても、柳町は競争する立場にある。チームの勝敗はレギュラーとして試合に出ている選手と首脳陣が背負うものであり、柳町はもっと「自分本位」でいいという。チームの顔となっていく選手なら、誰もが通る道を柳町も通ろうとしているからだ。

「打つしかないでしょう。レギュラーを取ろうと思ったら、そういう(チャンスを掴みに行く)気持ちがないと無理ですし。チームの勝敗もそうですけど、彼くらいの年齢だったらもっと自分本位でいいというか。自分の仕事場を作りにいく、自分がレギュラーになるためのプレーをするっていう考えでいいと思います。そういう気持ちがないとダメですし」

「みんなそういう気持ちを持って、レギュラーを取った人は取っている。こっちから与えられてレギュラーになるわけじゃない。奪われないように、自分から自分の“城”を守っていくしかない。晃(中村)だって柳田だって、健太(今宮)だって、みんなそこを乗り越えて自分の地位を作ってきているんだから」

 長谷川コーチは現役時代、3年目の2009年に打率.312を記録して初めて規定打席に到達した。それでも、チームの勝敗を背負うようになったのは「首位打者を取る年(7年目の2013年)くらいかな。それまでは自分のことで精一杯だった。2013年に確固たるものができてやっと、そこからようやくチームのことを考えるようになった」という。タイトルを獲得できるレベルに到達して初めて責任を背負ったのだから、柳町はもっと自分のためにも結果を求めればいい。

 柳町は右投げ左打ちの外野手であり、2019年のドラフト5位で入団した。今季が4年目ではあるが、通算1本塁打、3盗塁。今季に関してはどちらも、まだゼロだ。柳町のプレースタイルを踏まえて、長谷川コーチは自分の若かりし頃と姿を重ね、柳町がレギュラーをつかむにはバットしかないと強調する。

「彼の場合は特段、佑京(周東)みたいに足が速いわけでもないし、長打力があるわけでもない。自分の技術、バットの技術だけが勝負。出塁率も、ヒットの確率を上げていくバットの技術がレギュラーになっていくための彼の方法なので」

「僕もどっちかっていうとそういうタイプだったから。不器用だし、守備も下手くそ。足もそんな速くないし、もう打つのが長所だったから。そこで勝負するしかない。外野手で入ってくる選手はみんな足が速いし、肩も強いし。ましてや外国人の補強も入る。となると、やっぱり何で食らいついていくかといったら、打つしかない。彼も同じタイプだと思います」

 レギュラーへの道は明確である一方で、誰よりも厳しい道でもあるだろう。柳町自身も「結果を出していくだけかなと思います」と自らに言い聞かせた。今向き合っている「左投手」という課題を乗り越えた時、柳町はもっともっと頼もしくなっているはずだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)