ある“和巳さん”との約束を胸に、腕を振り切った。逆転される可能性すらあったピンチで、最高のリリーフだった。ソフトバンクは9日の巨人戦(PayPayドーム)で5-1で勝利した。6回2死一、二塁で登板した津森宥紀投手が無失点にしのぎ、和田毅投手の勝利投手の権利を守り切った。ピンチでの登板は「慣れはしないと思います。よりしっかり投げないと」というが、最高の役目でバトンを繋いだ。
先発の和田が5回を終えて1失点。6回も2死までこぎつけたが、梶谷に中前打、秋広に四球を与え、岡本を迎えたところでベンチは動いた。津森は岡本には四球を与えて満塁としてしまったが、中田を150キロの真っ直ぐで空振り三振。グラブを大きく叩いてガッツポーズすると、ベンチに戻ってハイタッチの嵐で迎えられた。
すでに今季27試合目の登板。この日、守護神のロベルト・オスナ投手が出場選手登録されたが、ブルペンにとっては乗り越えないといけない時期だった。勝ちパターンに火消し役など、幅広い役割で何度もチームを救った津森は、斉藤和巳投手コーチとある約束をしているという。投手とコーチ。信頼で成り立つ2人が、ともに乗り越えると誓った約束だ。
斉藤和コーチが明かす。
「マウンドに送る投手はみんな信頼している。(津森は)最近シビアな場面で(の登板が)多いから。そういうところを乗り越えてくれている。去年はこれくらいの時期から失速してしまったところがあるから。あいつとは約束しているので。『ここから上げていくぞ』って」
津森は昨季、51試合に登板した。交流戦までは防御率1.17と奮闘したが、交流戦では防御率8.44と落ち込んだ。結果的にシーズンでも4勝6敗と負けが先行した。タフな役割でブルペンを支えたものの、絶対的なセットアッパーというには“もう一歩”というところだった。
今季から就任した斉藤和コーチと交わした約束は、津森にとっても大きなモチベーションとなっている。交流戦が始まった5月30日の中日戦。試合前に斉藤和コーチと言葉を交わした。
「去年、ちょうど交流戦あたりから調子が一気に落ちたんです。去年の中日戦、(バンテリン)ドームから一気に調子が落ちて。今年はなんとしてもというか『この時期に落とさずに乗り切れるようにしよう』『去年と一緒の失敗をしないように』って」
昨季の交流戦から調子を崩してしまった要因の1つがコンディション面だった。「あまり実感はしていないですけど、投げたらどこかがズレているとかがあったと思う」。自分らしく前を向こうとしても「どこに放っても打たれるし、腕を振っても自分の球じゃない。謎でしたね、あの時は」と空回りしているような状態だった。スピードガンを見ても普段より落ちていたといい、数字にも自分の不調は表れていた。
マウンドに上がれば、100%まで気持ちを持っていき、パフォーマンスを発揮するリリーフ。オンオフの切り替えに「あんまり野球のことは考えないです。家に帰ったら野球のことは考えないです」という。打たれたとしても、映像を見て原因を復習するのは球場で済ませる。ユニホームを脱ぎ、家路につけば、家族との時間を過ごすことが津森なりのリラックス方法だ。
6月4日の広島戦(マツダスタジアム)。3-2で迎えた7回1死一、二塁でマクブルームを遊ゴロ併殺打に斬った。リードしたままバトンをつないでベンチに帰ると、斉藤和コーチから熱いハグをされた。「自分がちょっと落ち気味だった時に耐えられたので、喜んでくれたんだと思います。よかったって思いました」と安心した。選手と一緒になって喜んでくれるから、結果で応えたくなる。“和巳さん”を、もっと喜ばせたくなる。
大車輪のように投げてくれる存在がブルペンにいるから、ベンチも信頼して送り出せる。「毎試合、投げたところは後悔しないように。しっかりと1試合1試合、投げていきたいです」と津森。27試合登板だが、シーズン60試合や70試合登板も「行けるのであれば行きます」と意気込む。信じてくれる人のためにも、何度だって期待を力に変えていく。