3年ぶりのリーグ優勝を狙うホークスは5月を12勝9敗2分けで終えた。チームの戦いを間近で見守っていた西田哲朗広報は「4月は良くて、5月の前半は負けが込みましたよね。ビジターも多くて」と振り返る。その中で挙げたのが、栗原陵矢外野手の名前。「去年1年間プレーしていない疲れがどうしてもきているんだと思います」と印象を語る。
昨年3月に左膝の前十字靱帯を断裂し、長期のリハビリを乗り越えて今季のグラウンドに立っている。「どうしても結果を出さないといけないっていう、その辺が目に見えないプレッシャーというか……。彼も明るく見える選手ですけど、気を遣う選手ですから」と胸中を慮る。2021年は全試合出場を果たしたが、今年はまた違った疲れや重圧とも戦う日々だ。
5月30日の中日戦(PayPayドーム)から、セ・リーグとの交流戦がスタートした。29日に行われた前日会見で、壇上に立ったのが栗原だった。西田広報によれば、この会見への出席者は「選手会から選んでいくんです」と説明。ただ、参加予定だった選手会長の今宮健太内野手が体調不良で離脱。副会長の石川柊太投手が先発投手の“上がり日”、甲斐拓也捕手も練習の都合で参加できなかった。
そこでチームの副キャプテンであり、選手会の副会長を務めている栗原が選ばれたわけだが、そこにも栗原なりの気遣いがあったことを西田広報が明かす。
「話していたら、彼なりには『去年1年間やっていない』という考えがあるんです。『結果を残していないのにこういうふうに出ていいのか』って。そこが引っかかるところがあったとは思います。誰が見てもチームの顔ですし、周囲もそう思っているとは思いますけど『去年1年間やっていないし、もっと去年活躍している人を出していった方がいいんじゃないか』っていう考えがあるみたいです」
2022年に5試合しか出場していない自分が、会見の場に立っていいのか。選手会という物差しがあれど、栗原の中では葛藤があったようだ。取材を受けるのかどうかは選手の意思が尊重されるものの、それ以外の要素も当然ある。栗原本人に胸中を聞くと「(自分が出たのは)会長(今宮さん)がいなかったから。ただそれだけです」とし、活躍した選手がスポットライトを浴びるべきと訴えた。
「僕は去年、何もしていないので、ズカズカと出るのは絶対におかしいです。それは絶対にそうです。頑張ったら頑張っただけのものが、このプロ野球にはあると思う。1年間やっていない人間が出ることはない。それは若い選手とか、年齢とか関係ないと思います。しっかりやった選手が出るのが当たり前だと思います」
西田広報は昨オフ、初めて栗原と食事をともにした。中村晃外野手らを含めた4人での食事。グラウンド上や取材を受ける時の栗原は知っていたが「2時間、3時間ゆっくり話して、栗原って凄いねんなって、見方が変わりました。栗原の考えや気遣いをすごく感じて。これが栗原の凄さか……って思ったところはありました」と、初めて知る一面があった。
その場にいた4人では栗原が最年少だった。後輩らしい姿や気遣いがグラウンドでの結果にもつながっていると、西田広報は感嘆した。「晃さんは野球に対して熱い話をしてくださるんですけど、クリとはゆっくりご飯を食べたことがなかった」と楽しみにしていた食事の場。「広報ですけどその時は“素の西田”みたいな感じで、ゆっくり選手の話を聞くことって大事なんやなって思いました」と気付きもたくさんあった。
栗原は5月、打率.270、2本塁打、14打点だった。西田広報なりにも「責任感が強い選手ですから。自分のワンプレーでチームの勝敗を左右すると強く感じていると思う」とリスペクトするからこそ「チームを背負うべき男なのかなと思います」と期待し続ける。栗原なら、もっとやれる。西田広報も、そう思っている1人だ。