迷いを消した小久保2軍監督の言葉 3年目・牧原巧汰が歩む“打てる捕手”の道

ソフトバンク・牧原巧汰【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・牧原巧汰【写真:上杉あずさ】

3年目は苦悩の連続「自分がやってきたことがあまり出せていない」

 指揮官の言葉で、迷いのトンネルから抜け出した。2020年のドラフト3位でホークスに入団し、3年目を迎えた牧原巧汰捕手は「自分がやってきたことがあまり出せていない。整理できていない」と苦悩していた。「三振したらどうしよう」「打たなきゃ打たなきゃ」と自分を精神的に追い込んでしまっていた。投手との駆け引きの中でも考えすぎて自ら打撃を崩し、悪循環に陥っていた。

 苦悩の中で、光が差し込んだ試合がある。5月24日、25日に行われた四国IL香川との3軍戦で、2試合連続の本塁打を放った。この2試合では6打数4安打3打点と結果が出た。「迷いがなくなったというのが一番です。常に(バットを)内から内からという意識で」と語る表情は、これまでよりも明るかった。

 牧原巧の迷いをなくしてくれたのは、小久保裕紀2軍監督の言葉だった。5月16日から18日に、PayPayドームで行われた2軍戦。1軍本拠地で7年ぶりとなる2軍公式戦開催ということで、貴重な舞台を多くの若鷹に経験させるため、3軍在籍中の牧原巧も2軍に参加した。

「小久保さんとちょっとお話しました。アーリーワークでバッティングを見てもらったんですけど、『そんなにバッティングのフォームとかで悪いところはないよ』って言われたんです。すごく自分の中で大きな言葉を頂きました。すごくフォームとかタイミングの取り方とかを気にしていて、迷いがある中でタイミングが遅れたりしていました。やっぱりフォームじゃないなと思いました。自分の頭の中が整理できてなくて、こういう結果になっているなと思って、そこから変わりました」

 自身の打撃に確信を持てずに迷いを抱え、相手投手ではなく自分自身と戦ってしまっていた。小久保2軍監督の言葉で背中を押された。現在の居場所は3軍だが、迷いがなくなったことで調子は上向き。持ち味のバットコントロールで安打を量産し、アピールしていきたいところだ。

 昨季は怪我もあったが、2軍戦22試合に出場した。一時は「点を取られないキャッチャー」と小久保2軍監督が評するなど、捕手としての存在感も示した。だが、FAで嶺井博希捕手が加入した今季は、今まで以上に2軍出場のハードルも高くなり、いまだ4試合の出場に留まっている。

「自分が結果を出さないと上には上がれないし、1軍にも当然行けないっていうのは分かっています。周りがどうであろうと、自分が結果出さないと。まずは自分から」。ライバルは多いが、ベクトルを向けるのは自分自身。「やっぱり正捕手を獲るっていうのが自分の目標なので」と、捕手へのこだわりを持っている。

 捕手としての能力にも磨きをかけている。「特にワンバンストップは良くなってきていると思います。『ワンバンはいつでも来ていいよ』みたいに思っています。そういう気持ちになってきたのは、すごくプラスです」と、成長に手応えを感じている。

 ピッチャーとのコミュニケーションにも積極的だ。2軍であれば、1軍の実績ある投手とバッテリーを組むこともある。ルーキーイヤーには、当時2軍調整中だった千賀滉大投手といきなりバッテリーを組んだ。しかし牧原巧は今、全く異なる考えを持っている。

「3軍のピッチャーと2軍のピッチャーも全然違いますし、1軍から調整に来ているピッチャーも全然違います。その中で、やっぱり3軍、4軍のピッチャーをどうリードするのかっていうのは、自分の中ですごく勉強になっています。2軍のピッチャーだと、ある程度のボールは投げられる。それも勉強になるんですけど、違う捉え方をすると、3軍や4軍のピッチャーを自分がどういう風に引っ張っていけば、いいピッチングが出来るのかなということを考えています」

 3軍や4軍にいる後輩や若い投手とバッテリーを組む時こそ、捕手としての能力が試されると感じている。早く2軍に上がりたい気持ちは当然持っているが、今は与えられた場所で、着実に捕手としての力を身に付けようとしている。悩みながら、もがきながらも、3年目捕手は現状と真っすぐ向き合っている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)