自分に抱く“矜持”が、ここまでたどり着かせてくれた。ソフトバンクの和田毅投手が24日の日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)で先発登板し、5回1失点で今季4勝目を挙げた。現役選手では4人目となるNPB通算2000投球回も達成し、ヒーローインタビューで「スタートでいきなりホームランを打たれてしまったんですけど、打線がすぐに取り返してくれて。5回まで勇気を持ちながら投げることができました」と語った。
初回1死、ハンソンに1号先制ソロを浴びる。2回に栗原陵矢外野手の5号2ランで逆転すると、3回無死一、二塁で再びハンソンを迎えた。今度は二ゴロ併殺に仕留め、5回82球にまとめて4勝目を手にした。藤井皓哉投手と並んでチームトップタイの白星。年齢関係なく、自分の能力と存在感でチーム内に居場所を築き続けている。
2回を終えた時点でNPB通算2000投球回に達した。今季は球団最年長勝利を更新するなど、次々と記録を作り続けている。史上93人目の2000投球回に「たくさん怪我もしましたし、1年半投げられない肩の故障もあったんですけど。たくさんの方に支えられてここまでこられた。まだまだ投げられるように頑張っていきたい」と感謝する姿が和田らしい。42歳と3か月の達成も、史上最年長だ。
「白髪が増えてきた」と年齢を感じることもある。こなせたランニングの量も、若かりし頃のようにはいかないという。「それはもうだいぶ前から感じている。ダッシュも長距離走も、ポール間とかもそうだし、前はもっと軽く走れていたのに……っていうのはずっと感じていますね」。今では体幹トレーニングをメインに、独自のアプローチで結果を求めるようになった。「前は走っておけばなんとかなると思っていたけど、今はそれじゃあね」と笑う。
年齢を重ねれば、緩急や投球術で抑える投手が増えていくイメージがある。そんな中、直球を軸とした変化球とのコンビネーション、投手としてお手本のような和田のスタイルは一切変わっていない。衰えるどころか、凄みを増すばかりだ。昨年5月には自己最速の149キロを計測。「球数は投げられなくなっているけどね。自分でもアップデート、進化していかないと」。常に現状に対応してきたから今がある。
根本にあるのが、自分だけのスタイルに対するこだわりだ。
「歳を取ったから球速が落ちてもいいという考えでは、もっと衰えて落ちていくと思うので。いけるところまではそうだし、できなくなったらその時に考えればいいので。本当にそこだと思います」
今春のキャンプでは「スラーブ」と自称するパワーカーブを習得し、シーズンでも使用している。さらにキャンプ中はシュートもブルペンで試投するなど、打者を抑えるために何かを探す姿勢はチーム随一だ。常に自分の結果に「最年長」といった枕言葉がつきまとうようになった。年齢でくくられることすら「別になんとも思わないですよ」とケロリと笑う。和田が一切歩みを止めないのは、まだ自分が思う頂点からの景色を見ていないからだ。
「過去にはもっとすごい人がいたわけですし、今現在っていうだけで、今後も出てくるかもしれない。投げ終わってから(最年長記録などと)言われて『確かにそうだね』っていう。周りは言ってくれますけど、本人はあまりピンときていないですね」
「工藤さんも48歳までやられて、山本昌さんは50歳までやられている。最年長って言われても、もっと上がいる。岩瀬さんもやられていて、44歳、45歳までやられた先輩がたくさんいるので。まだまだ最年長ではないな……って思います。僕が51歳までやっていたら『すごい記録だな』って思います」
ホークス、他球団のレジェンドの名前が次々と出た。「現役」というくくりから「史上」という領域へ、和田は飛び込もうとしている。まだまだ上がいることを知っているから、和田の向上心は止まらない。自分を突き動かす思いについて「野球が好きなんでしょうね。今でも上手になりたいとか、いいボールを投げたいとか、そういう気持ちがなくなったことはない」と表現したことがある。和田の1試合1試合の登板すら、これからはもう見逃せない。
「1日1日が楽しいし、調子が良くない時もあって、どうやって良くなっていくのか過程を自分で作り上げていくのが楽しいですしね。1日1日、壊れたら終わりなので。壊れないようにもちろんやりますけどね」
和田は節目で明確に「引退」を覚悟した言葉を口にしてきた。“終わり”を意識しているから、毎日を後悔なく過ごしている。だからこそ、和田の存在は尊い。