石川柊太が考えを変えた千賀滉大との会話 メジャーの大投手2人が投げかけた疑問

ソフトバンク・石川柊太(左)とメッツ・千賀滉大【写真:藤浦一都、ロイター】
ソフトバンク・石川柊太(左)とメッツ・千賀滉大【写真:藤浦一都、ロイター】

「いろいろやってきたけど、もうそろそろ落ち着く時期なんじゃない?」

 大きな1勝になるかもしれない。そんな手応えの感じる投球だった。19日に本拠地PayPayドームで行われた西武戦で8回途中4失点と好投し、3勝目を挙げたソフトバンクの石川柊太投手。「自分の中ではすごく大きな登板になったかなというところで、今日は良かったですね」。8回途中での降板となったものの、その表情は充実感が漂っていた。

 初回2死から外崎にパワーカーブをソロ本塁打にされて先制を許した。味方が逆転してくれた2回にも、先頭の陽川にパワーカーブをスタンドまで運ばれ、2イニング連続の被弾で同点とされた。「今日はどうなるかと思った」というが、このイニングの途中に加えた修正が、石川を変貌させた。

「2回の途中から自分の中でハマるキッカケがあった。それでガッと良くなった。体幹の部分というか、普段、意識している部分を改めて思い返してやったら、それがハマった。やりたいことの最後のピースがハマったんです」

 2点目を失って以降、7回までわずか1安打ピッチング。四球もなく、4回2死から陽川に浴びた右前安打だけに抑えた。今季最多の10奪三振。「8回はもう球が高かった。そこは踏ん張りたかったですけど、まだまだ実力不足だなっていうのを痛感しました」。イニング途中の降板こそ悔やまれるものだったが、その投球内容に自信を深めた。

 キッカケはメッツで奮闘する千賀滉大投手との会話だった。5月上旬のこと。アメリカの千賀と電話で長時間、話す機会があった。「『俺らって色々とやってきたけど、もうそろそろ落ち着く時期なんじゃない?』みたいな話になった」。

 石川によると、千賀はメッツでチームメートのジャスティン・バーランダー投手、マックス・シャーザー投手からこんな質問をされたという。「あれだけ球が速いのに、なんでドライブラインのトレーニングをやっているんだ?」。千賀と石川は常に成長を目指すために、練習方法やフォームなど、様々なことに挑戦してきた。登板ごとにフォームが変わることさえもあった。

 すでに160キロ前後のボールを投げられる千賀が、なぜ次々に取り組みを変えるのか。ともにサイ・ヤング賞3度、メジャー通算246勝のバーランダー、204勝のシャーザーという、メジャーを代表する名投手2人から投げかけられた疑問。石川と千賀は「1つ自分を知った上で運動力学的、運動連鎖的に自分のいいところ、1つ芯を作った上で、そこで突き抜ければいいな、と。やることの一本化というか、洗練させていく時期なのかな、と」という考えに至った。

「自分と千賀は変わらないことは停滞だと思っていて、工藤(公康)さんも言っていましたけど、そういう気持ちで常に良くなろうって色んなことを試して、それでフォームが毎回違ったりを繰り返してやっていた。千賀は毎日がもう刺激で、日々新鮮でしょうし、面白い話を聞いたら教えてくれる。日本でもベテランで頑張っている人たちって、みんな自分を持っている。自分がやってきたことを洗練させる人たちが残っている。僕たちもそうなっていく必要があるんじゃないか、と」

 前回登板だった5月12日のオリックス戦。5回2失点で降板したこの試合でも、石川は良い感覚を得ていた。それを自分の“芯”にして、その後の1週間の調整を進めてきた。「1つ自分の中での軸を決めて、その道を進んでいこうという、1歩目を踏み出せたような感じがした。ある箇所に力が入るようにっていう仕上げ方を根本的に土台にしてやっていきたい。また次の登板でも同じように(感覚が)出たら、自分の中で大きな登板になる」。自らの“芯”になりそうなものが見つかりつつある。

 チームの柱となるべき石川でさえ「常に不安ですよね」と溢す。「結果が良くなかったら2軍っていう危機感の中でやっている。選手層が厚いので」。常に上を目指して変化を続けてきた石川に芽生えた“新たな境地”。千賀と共有したメジャーの大投手の言葉を糧に、より良い投手を目指していく。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)