1つの自信が、試合の流れを決めるプレーにつながった。21日に本拠地PayPayドームで行われた西武戦。1点リードの5回、ソフトバンクの川瀬晃内野手は思い切った策に打って出た。2死満塁でセーフティバント。相手投手・森脇の左を抜けていく内野安打となり、貴重な3点目を生み出した。
この打席の直前、川瀬は森浩之ヘッドコーチから耳打ちされた。「狙えるチャンスがあったら、やってもいいんだぞっていう一声をもらったので」。初球は打ちに行って見逃しのストライク。「迷ったんですけど、(相手の一塁手と二塁手が)下がっていたので、思い切ってやろうと思った」。2球目でセーフティバントに切り替えると、一塁に頭から飛び込んだ。
1ストライクからのバント策。失敗すれば、追い込まれて苦しい状況になるリスクがある中で、このプランを遂行しようと考えたのには、川瀬なりの“2つの自信”があったからだった。1球目と2球目のわずかな時間、頭の中で描いた考えはこうだった。
「もしファウルになっても、そこから自分の長所を生かして粘ればいいなっていう考えで思い切っていきました。(粘りは)自分が自信を持っている部分でもあるので」
この場面で三振は絶対にしたくない。バットに当てなければ、事は起こらない。川瀬は「ピッチャーにもよりますけど、あの打席はあまり三振するっていう感じはなかった。どうなっていたかは分からないですけど、もし追い込まれても、そこからしっかりおっつけて自分の仕事ができるなっていうふうに思った」と言う。相手投手の球種や状態、自身の状態を踏まえた上で“三振しない自信”があった。
相手の守備隊形からも決められる自信があった。打席に入る前から一塁手と二塁手の守備位置は深め。初球のあとに再び目を配ると、さらに深くなったように見えた。「いつもより下がっていて、もう1回見たら結構下がっていたのでこれはチャンスあるなと思っていきました」。狙った一塁方向に転がせば、セーフになれるはず。そんな“根拠”を持って、作戦を実行に移した。
大分商から2015年のドラフト6位でプロ入りし、今季が8年目。「スーパースターばっかりですけど、1人くらいこういう地味は選手がいてもいいと思っている」。今季はここまで“味のある”働きを見せている。5月17日の楽天戦では3安打猛打賞。守備も堅実で、怪我で離脱している牧原大成内野手の穴を埋め、二塁手として存在感を高めている。
「ホームランが打てるわけでもないですし、守備も特別上手くないし、足もそんなに速くないと思っている。そういった中でもやれることってたくさんあると思うし、1試合1試合、爪痕を残さないといけないなっていうふうに思いながら過ごしている。今日みたいな泥臭い1点っていうのはとても大きいかなと思います」
来週には牧原大が復帰する見込みだが「そういうことは意識せず、1日1日をやっていけば、必ずチャンスは来ると思っています。人によっていろいろ変えるっていう思いは今の僕にはなくて、1日1日しっかり自分の与えられた役目っていうのを果たせば、自然と出られる機会も多くなってくると思っています」と過剰に意識することはない。
ユーティリティ性と粘りが信条の川瀬。自身では「地味な選手」というが、そういう存在がチームには欠かせない。3年ぶりの優勝を狙うホークスにとって、大事なピースになっている。