越えていくべきものは、憧れた背中だ。ソフトバンクの川瀬晃内野手が17日に山形で行われた楽天戦に「8番・二塁」で先発出場し、3安打2打点と勝利に貢献した。2回1死二、三塁では先制の右前適時打を放ち、球団を通じて「つないで作った先制のチャンスを生かすことができて良かったです」とコメントした。
16日に盛岡で行われた楽天戦では0-3と敗れただけに、先制点の意味も大きかった。相手先発の荘司から2回、栗原陵矢外野手の左前打と柳町達外野手の四球などで作ったチャンス。川瀬が初球のストレートを振り切る。打球は右前に抜け、チームに勢いをもたらした。8回1死一、三塁でもスクイズを決め、2打点で起用に応えてみせた。
2021年の契約更改の場で川瀬はこう言った。「僕が尊敬していた1人の、川島慶三さんが退団することになりました。元気を出して、慶三さんみたいな位置に立てるように」。同年オフで川島慶三(現楽天2軍打撃コーチ)がホークスを退団した。川瀬にとっても驚きを隠せないようなニュースで、2022年はホークスと楽天、敵同士で優勝を目指し合った。
そんな“師匠”は昨季限りで現役を引退した。シーズンを終えた昨オフ、福岡で行われたゴルフコンペで久々に川島と再会できた。「その時に『お疲れ様でした』と伝えることができました」と振り返る。川島から学んだことは、今も胸に秘めてグラウンドに立っている。
「練習にしても、1球1球を大切にして。途中から出る人っていうのは『隙があったら途中から出ていくのは難しい』と。ノック1つにしても丁寧に練習しなさいっていうのは言われ続けてきました。(途中から出る選手は)毎試合、いく回とか状況も違いますし、難しい部分があるので」
「僕が入団してからずっと『お前はできる』っていうふうにプラスなことを言ってもらい続けて。僕にとっても大きな存在でしたし、僕の守備が少しずつですけど上手くなったのも慶三さんのアドバイスがあったから。ここ(1軍)に立っているのも慶三さんの力っていうのがあると思います」
川島はホークス時代、明るいキャラクターと的確なアドバイスで後輩を引っ張り、ファンにも愛された。川瀬もその背中を見てきた1人。記憶に残っているのは2020年だ。9月12日の西武戦(PayPayドーム)で川瀬が遊撃、周東佑京内野手が二塁で出場していたが、周東が2失策。周東が人目をはばからずベンチで涙を流したことで注目されたが、川瀬も「佑京さんとエラーした時も、いろんなアドバイスをもらった」と、今でも忘れられない試合の1つとなっている。
川島からもらったアドバイスは「何回もあります」という。内容も「エラーやミスの指摘もしてくれるんですけど、最終的には『明日もあるんだから頑張れ』って、プラスに話を進めてくれるので。僕自身もちゃんとしないといけないっていう(前を向く)癖っていうのは慶三さんにつけてもらいました」と川島らしさが詰まったものばかり。この日の楽天戦も、きっと“慶三さん”は見ていてくれたはずだ。
「慶三さんはミスをしてもベンチで盛り上げてくれますし、味方がエラーをしたらケツを叩いてくれる。本当に助けられましたし、コーチになられてグラウンドで会う機会があるので。それは嬉しく思います」
ずっと追いかけてきた「慶三さんはチャンスに強いバッティングや、球際に強いイメージがあった」というプレースタイル。この日の活躍は恩返しにもなったはずだ。2021年の契約更改から少し時間が経っても、目標は一切変わっていない。「もちろん、ああいう存在になりたいです」。