【連載・栗原陵矢】“恩人”に捧げたかった白星 4号グランドスラムにあったドラマ

ソフトバンク・栗原陵矢【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・栗原陵矢【写真:荒川祐史】

「言葉じゃ言い表せないぐらいお世話になりました」

 鷹フルがお届けする月イチ連載、栗原陵矢外野手の「5月前編」です。今回のテーマは「恩人に捧げた勝利」。4月27日に本拠地PayPayドームで行われた楽天戦は並々ならぬ思いを胸に戦った試合でした。栗原選手の「5月中編」は18日(木)に掲載予定です。

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 感謝の思いを抱きながら回ったダイヤモンド一周だった。4月27日の楽天戦。6回1死満塁で打席に入った栗原は右翼へのグランドスラムを放った。ファンの大歓声に包まれながら、拳を握りしめた。

 両チーム無得点で迎えたこの回、1死から中村晃外野手が遊撃内野安打で出塁。続く近藤健介外野手が左翼への二塁打で繋ぎ、1死二、三塁のチャンスを掴んだ。栗原の目の前で打席に立ったのは主砲でキャプテンの柳田悠岐外野手。栗原は覚悟を決めた。

「回ってくると思いました。あれだけ率の高いバッターが前にいて、ピッチャーは投げにくい。どちらが抑えられる確率が高いか、となったら絶対に自分なので。自分勝負になると思っていました」

 柳田は打率3割を超え、好調を維持していた。かたや栗原は不振に陥り、打率は2割台前半まで下降していた。開幕4試合で3本塁打を放ったものの、その後は本塁打もなし。誰がどう考えても相手は自分と勝負してくる。ネクストバッターズサークルでプレッシャーを感じていた。

 2ボール1ストライクからの4球目。左腕・鈴木翔が投じた真ん中低めの真っ直ぐを捉えた打球は右翼スタンドへと飛び込んだ。15試合ぶりとなる本塁打は先制の満塁弾。「打たんとヤバいと思っていました」。安堵の思いが溢れた。

「勝って送り出したいという思いは強かったですね」

 この試合は36年間、グラウンドキーパーとしてホークスを支えてきた徳永勝利さんの最後の勤務日。平和台球場から福岡ドーム、2軍が本拠地としていた雁ノ巣球場、さらにはキャンプ地の宮崎・生目の杜運動公園と、各地のグラウンドを最高の状態に仕上げてきた功労者のラストゲームだった。

 栗原にとっても“徳さん”は特別な人だった。2015年のルーキーイヤーは雁ノ巣球場で“徳さん”たちが整備したグラウンドで汗を流した。朝早くから夜遅くまでグラウンドを最高の状態に維持するために力を注ぐ姿を見てきた。1軍の主力となってからは、グラウンド状態についてや、地方球場のコンディションについて意見を交わしたりもした。

 4月8日に西武戦が行われたひむかサンマリンスタジアムで、ホークスは2月に侍ジャパンと強化試合を戦っていた。この時、グラウンド状態の悪さを感じ、徳永さんに徹底したグラウンド整備の必要性を訴えたのも栗原と今宮健太内野手の2人だった。

「言葉じゃ言い表せないぐらいお世話になりました。毎日朝早くから夜遅くまでグラウンドを綺麗にしていただいてきた。キャンプ中もそうですし、選手がすごいやりやすいようにいつもしてくれていたので」

 最終戦となったこの楽天戦前にも栗原は徳永さんと言葉を交わし、こうお願いをされた。「今日はなんとか勝ってくれ。勝って送り出して欲しい」。36年間、ホークスを支えてくれた功労者。“徳さん”へ捧げる勝利への思いが、乗り移った打球でもあった。

 白星を飾った試合後、栗原は“徳さん”に粋な計らいをした。先発での初勝利を飾った森唯斗投手と共に上がったお立ち台に徳永さんを呼び寄せ、記念撮影に収まった。この時の思いをこう明かす。「最後、いい形で見送ってあげたいという気持ちでした。今までの感謝の思いでした」。

 栗原は徳永さんにこう誓った。「徳さんのためにも今年、なにがなんでも優勝します」。ファンのため、そして徳永さんへの恩返しのため。栗原にはどうしても“優勝したい”理由がある。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)