2勝目が消えるも「アイツの責任ではない」…森唯斗が逆転許した松本裕樹を庇う胸中

ソフトバンク・森唯斗【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・森唯斗【写真:荒川祐史】

5回1失点も2勝目が消滅…今季2度目の先発に「粘り強く投げることはできた」

 かつて自分の“職場”だったから、痛いほど気持ちはわかった。ソフトバンクは10日の日本ハム戦(PayPayドーム)に3-6で逆転負け。先発の森唯斗投手は5回1失点だったが、6回に松本裕樹投手が2者連続被弾で試合をひっくり返された。試合後、継投に踏み切った藤本博史監督は「責められないですよね。いいピッチングしてくれていたからね。使った僕が悪いんですから」と淡々と話していた。

 森にとって今季2度目の先発だった。2回先頭の野村に左翼席に特大のソロを浴びて先制を許した。3回1死一、三塁では上川畑をカーブで空振り三振、万波を三ゴロに仕留めてしのいだ。6回からは継投へ。マウンドを降りることとなった右腕は「粘り強く投げることはできた。ただリズムのいい投球ができなかったところは反省点です」と、ブルペン陣にバトンを託して戦況を見つめた。

 ただ、代わった松本裕がマルティネスに逆転2ランを被弾。さらに続くアルカンタラにも右翼スタンドへと消えるソロを浴びた。開幕から勝ちパターンの一角として厳しい場面で投げてきた右腕が、まさかの2連続被弾。ベンチでうなだれた松本裕に対し、森は「アイツの責任ではないと思います」とかばった。

 森は通算127セーブ、同128ホールドポイントをリリーフとして記録し、今季から本格的に先発に転向した。4月27日の楽天戦(PayPayドーム)で今季初先発する前には「一発勝負」と表現し、今回も「その気持ちは変わらないです。一緒です」と強い気持ちで立ったマウンドだった。森もまだまだ競争の中にいる立場。2勝目という結果はほしかったはずだが、勝利投手の権利は消えてしまった。それでも松本裕を擁護したのは、自分も経験してきた道だからだろう

「僕が投げられなかったのが悪いとも思いますし、マツは頑張っているからですね。あいつの責任ではないと思います。僕ももっと投げられるように頑張らないといけないと思います」

 6回、日本ハムは3番からの攻撃。斎藤学投手コーチによれば、球速が落ちてきてきたこと、打順の巡りなども考慮しての73球での降板だった。「僕がもうちょっと投げていれば……」と悔いる。

 守護神としてチームが勝利する瞬間にマウンドにいることが喜びだったが、今は試合を作る側となった。マウンドを降りれば、あとはもう祈ることしかできない。「試合が続いている以上、応援しないと」。ベンチの最前列で身を乗り出し、声援を送り、リリーフの頑張りを自分のことのように見つめていた。松本裕を責める理由など、森の頭には1ミリもなかった。

 松本裕は開幕から12試合連続無失点など、結果を残し続けてきた。松本裕の降板後、ベンチで隣に座り、言葉を交わした斉藤和巳投手コーチも会話の内容を明かす。

「あいつは明日からもチームがしんどいところで投げてもらわないといけない。彼は彼なりに反省してくれているので。それはそれで、反省は必要ですし。ただ、今日だけにしておこう、と。明日からはまた、頼りにしているんやから、反省は今日までにしてくれって話をしました」

 ベンチで応援する森の姿を当然、斉藤和巳投手コーチも見ていた。「最前線で応援していたよ。本人はしっかり投げてくれた」と代弁する。リリーフ時代はブルペンを引っ張ったリーダー的存在。先発に転向したことで「今は自分のことで必死やろうから、こっちもまだそこまで求めていない。自分の居場所を確保できるように頑張ってほしい」と言うが、信頼は高まっている。

 森は「しっかりと反省して次に生かしたい」と前だけを向いた。この日は勝利で応えることはできなかったが、森唯斗を中心に、投手陣はもっともっと一丸になっていける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)