斉藤和巳投手コーチですら「正直、イラッとした」と厳しい口調だった。ハッキリと言ってもらえることに感謝し、これをキッカケに変わらなければいけない。序盤の大量失点で4-9と敗れた3日のオリックス戦。先発したソフトバンクの武田翔太投手は2回までに11安打を浴びて、6失点でKOされた。内容以上に、姿勢そのものに厳しく言及したのが、斉藤和コーチだった。
1回1死から3連打で満塁となった。ここでは頓宮を空振り三振、ゴンザレスを左飛に斬ったが、2回は耐えられなかった。1死から3連打で同点とされた。宗の二直で2死となったが、中川には147キロの直球を捉えられて、左越えの勝ち越し3ラン。その後も森、頓宮、ゴンザレスの3連打で5点目を失い、紅林の左前適時打でこの回6点目を奪われた。
打ち取った打球が野手の間に落ちることもあり、最後までオリックス打線を食い止めることはできなかった。ただ、四球も失策も絡むことなく、安打だけでここまで打ち崩されることはなかなかない。2回で降板となった直後、斉藤和巳投手コーチは武田と向き合い、言葉を交わした。試合後、このベンチでのやりとりを、斉藤和コーチは「なんて表現したらいいんやろ…」としながら、内容を明かした。期待しているからこそ、はっきりと自分の思いを伝えていた。
「『自分の置かれている立場を考えろ』って。打たれたこと自体にどうこうじゃない。初回を見て、ゼロに抑えて、それだけで俺は満足できない姿やった。『もっと勝負しろ』『かわそうとするな』って。プライドなんかわからんけど、結局その後にババッと取られて。ヨーイドンで戦う姿勢じゃないとさ、みんなにも失礼やし、こうやって試合を壊しているわけやから」
「それも含めて、考え方とかも技術の1つやから。それが思うようにできていないから、ここ数年伸び悩んでいる。契約が何年あるのか知らんけど、そんな話もしたよ。『そんなん知らん』と」
初回に3本の安打を浴びたところから、斉藤和コーチの目には物足りなく映っていた。契約の内容にも踏み込んだ。2016年を最後に2桁勝利から遠ざかっていることも、全てがつながってこの現状なんじゃないかと、はっきり言った。武田にとっては今季が4年契約の2年目であり、2025年まではユニホームを着ることができる。それも踏まえて「そんなん知らん」と言い切った。
4月21日のロッテ戦(ZOZOマリン)で、4回1/3を投げて3失点で1敗目。翌日に登録抹消となり、この日の先発を目指して調整してきた。斉藤和コーチも「間が空いた難しさもプレッシャーも、俺も経験したからわかる」と理解しつつ「そういうのを抜きにしても、絶対に抑えてやろうっていう、森(唯斗)じゃないけどさ。それくらいの気持ち、責任を持ってあそこ(マウンド)に立ってもらわないと。試合はあいつ1人のものじゃない」と厳しい言葉を突きつけた。
武田はマウンドでも感情を出すことは少なく、どちらかといえばひょうひょうとしている性格でもある。個性があることはもちろん理解しつつ、現役時代にマウンドで雄叫びをあげた斉藤和コーチは「初回、ゼロに抑えたけど俺の中では正直イラッとした。ゼロに抑えたからいいわけじゃない」。そして「あいつのことを思って…」と切り出して、こう続けた。
「ここであかんかったら、もうあかんねんっていう状況やんか。これだけ間を空けられるってことはさ。あいつは『勝負にいった』っていうけど、それが心からの本心なのであれば、ただ技術がないってことやん。ということは、この世界で生き残りたいなら技術を上げろ、と(伝えた)。それは本心でない、自分の中で偽りがあるのであれば、同じことを繰り返す。だからこの数年、こんな感じなんやろ」
ここまでハッキリと思っていることを、本人にもメディアの前でも言うということは、斉藤和コーチの武田に対する誠実さでもあり、愛情でもある。「それが仕事だから。それが和田であろうと関係ない。言うってことは俺も責任を持って言っているし、自分の中で自信じゃなくて確信があると思っている」。武田翔太は、今ここで変わるしかない。