鷹フルでは2023年シーズン、4人の選手に毎月インタビューを行い、月イチ連載としてホークスの1年の戦いを追いかけていく。甲斐拓也捕手、周東佑京内野手に続く3人目は副キャプテンとしてチームを引っ張る栗原陵矢外野手。前編のテーマは「『全然良くない』打撃の状態」。栗原が打者としての好調と不調の差について語った。なお、中編「『ツラかった』リハビリ生活」は4月20日(木)に公開予定です。
364日ぶりに立った1軍の舞台は格別だった。3月31日のロッテとの開幕戦。長く険しいリハビリ生活を経て、左膝前十字靭帯断裂の大怪我から復帰を果たした栗原は心の底から喜びを感じていた。「嬉しかったですね、シンプルに。『あぁ帰って来られた……』って感じでした」。超満員のスタンド、今季から解禁された声出し応援、自身に向けられる拍手。一身に浴びるその全てをグッと噛み締めた。
その開幕戦で決勝の1号3ラン。さらに翌日の同戦でも先制の2号ソロを放ち、4月4日のオリックス戦でも3打点をマークした。柳田悠岐外野手、近藤健介外野手と繋がる上位打線は相手の脅威となり、ホークスは開幕して12試合を終えて9勝3敗と好スタートを切った。全試合に4番として出場している栗原も打率.271、3本塁打13打点。本塁打はパ・リーグ2位タイ、打点はパ・リーグ単独トップに立つ。
大怪我から復帰したシーズン。結果から見れば、上々のスタートを切ったように思える。メディアも「完全復活」「絶好調」と持て囃した。ただ、当の栗原本人の受け止め方は違った。
「全然いいとは思わないですね」
打撃の状態を問うと、開口一番にこう返ってきた。「状態は普通。めちゃくちゃ普通です。全然いいとは思わない」。周囲は結果、数字で選手を評価し、好不調を判断しがち。結果が出ていれば好調、出ていなければ不調と扱ってしまうものだが、当の選手たちの判断基準はもっと別のところにある。栗原が自身を好調と思わない理由。それは「アウトの内容が良くない」からだ。
「いいスイングができたっていう打席は少ないですね。球の見え方だったり、自分がどういうふうにバットを出せたのか、本当に自分が待っていない球への反応がどうだったか。それができていれば、次に繋がるというのがあります。今はそういう打席はそこまで多くないんです」
ひとえに安打と言っても、打者にとって感覚の“良い安打”と“良くない安打”がある。同様に、ひとえに凡打と言っても、打者にとって“いい凡打”も“悪い凡打”もある。自身の理想とする球の見え方、スイングができ、待っていない球種にも反応できた内容のいい打席であれば、たとえ凡打となっても、次に繋がる中身の詰まった打席になる。
打者にとって状態がいいというは、この“いい安打”や“いい凡打”が多い時のことを言う。現状の栗原は安打や本塁打こそ出ているものの、“いい凡打”が少ないのだという。怪我から復帰し、1年ぶりに立つ公式戦の舞台。まだまだ試行錯誤を続けている段階にあるのだ。
決して良くない状態の中で結果が出ているのは、打者として進化している証でもある。昨年、ほぼ1年を要したリハビリ期間中も復帰を目指して、ではなく、復帰したその先を見据えてトレーニングに励んできた。
「強く振れること、打球速度をしっかり上げられることが1番かなと思っていました。それは体の状態が良くないとできないですし、元気じゃないとそういうスイングは続けられない。そう考えた時に体の面が1番。体を強くしなきゃいけないってやっていましたし、今も継続してやっています」
リハビリ期間を経て、栗原の体は一回りも二回りも大きくなった。リハビリを経て元の姿に戻るようにするのではなく、元の自分を超える、より強靭な肉体を手に入れられるように鍛えてきた。シーズンが始まった今もトレーニングは継続しており、このインタビューが終わった後も、ウエートトレーニングに汗を流していた。
栗原自身は怪我の前の自身と比較し「今のところ、そんなに成長したところは感じていないですね。結果が出ているっていうのも、何かこう特別なことはないです」という。それも栗原が打者として目指すレベルが高い故だろう。まだまだ上がり目は十分にある。この先の長いシーズン、栗原がどれだけの数字を残してくれるのか。楽しみは尽きない。