4日のオリックス戦の9回に古川侑利が登板…2死から森に被弾
力強すぎるほどに背中を押されたことは、2度目の登板への勇気となる。ソフトバンクの古川侑利投手は、ここまで1試合登板とブルペン待機が続いている。昨オフに行われた現役ドラフトで日本ハムからホークスにやってきた右腕は、見事に開幕1軍をつかんでみせた。佐賀県出身の27歳。新しい戦力になれるようにキャンプ中からアピールを重ねてきた。
今季初登板は、4日のオリックス戦(京セラドーム)だった。西野を一ゴロ、中川圭を三飛に打ち取ったが、ゲームセットまであと1死のところで、森に右翼席にソロアーチを浴びた。ホークスでの初登板を無失点では終われず「カウントを悪くしたのが一番。スッといってしまった。もっと厳しくいくべき打者でした」と2ボールからの被弾を振り返る。チームは勝利したものの、自分をアピールしたい大事な今季1試合目でゼロは並べられなかった。
翌日の5日だった。試合前練習中に、外野で体幹トレーニングをしていると、やってきたのが斉藤和巳投手コーチだ。佐賀県で生まれ育った古川にとって「九州の野球する子どもなら誰もが通る道でしょう」と、ずっと投球フォームも真似してきたヒーロー。現役ドラフトという運命を経て同じユニホームを着ることになった。「まじで小さい時から見ていたので、一緒に野球がやれているのは幸せです」という憧れの存在から、ド直球で言われた。
「ビビってんじゃねえぞ!」
そして「次ビビったら俺がマウンドまでいくからな!」と続けたという。もちろん、本気で怒ったわけではない。ニュアンスは“励まし”に近かった。古川自身も「優しいというか、そう言ってもらった方が僕はいいです。次に『やり返したる』って気持ちが出てくるタイプなので」と話せるほど。楽天時代は森山良二3軍監督が投手コーチで「森山さんもそんな感じなんです。そういう方が僕としては嬉しい」と、まさに適切な言葉で古川に前を向かせた。
その姿を見守っていたのが西田哲朗広報だ。中堅で撮影をしていると、そのシーンをたまたま見た。現役選手として11年を過ごした西田広報も「すごいな、うまいこと声をかけるんやなって思いました」と、第3者としての印象を語る。いつもニコニコしている古川を西田広報も「性格的に優しい」と表現する。だからこそ斉藤和コーチの言葉からは、古川の性格をしっかりと見極める“愛情”を感じた。
「確かに本人は打たれたのも心の中にあると思いますけど、和巳さん的には関係なく思い切っていけっていうことを言いたかったんじゃないですか。キツく言っているように見えて優しいし『気を使っている』という言い方の最上級だと思いました。言われてマイナスになるような表現でもトゲのある言い方でもなかったし、本人が前を向けるような言い方でした」
西田広報が引き合いに出したのは、NPBで通算823試合に登板した五十嵐亮太氏だ。「五十嵐さんも鼓舞する時、そんな感じなんです。思ったことをバンって言って注意するんですけど、なんか前向きになれる言葉でした」。その他にも川島慶三(楽天2軍打撃コーチ)も似たタイプのチームリーダーだったと名前を挙げる。「相手の気持ちをわかった上での声かけだと思う」と自分も見てきた先輩の背中に、斉藤和コーチも重なった。
ハッキリと思ったことを伝えた上で、選手に前を向かせる。それが斉藤和コーチ流の選手の励まし方だ。古川はオリックス戦以降、ブルペン待機が続く。「次はしっかりピシャッと3人で抑えられるように。いってやりますよ。ビビりません!」と力強く宣言した。斉藤和コーチの真っ直ぐな姿勢に応えたいという気持ちが、今の投手陣を突き動かしている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)