栗原陵矢が泣いた昨年3月31日の夜 LINEを送った甲斐拓也の思い、2人の固い絆

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

栗原が捕手への未練を捨てた理由の1つが甲斐の存在だった

 3月31日、本拠地PayPayドームで行われたロッテとの開幕戦に、ソフトバンクは4-0で勝利した。大事な開幕戦で勝利を呼び込んだのは、昨季、怪我でシーズンをほぼ棒に振り、長く険しいリハビリを経て復活した栗原陵矢外野手だった。

 両チーム無得点の6回。近藤、柳田を塁に置き、打席に立った栗原の打球は右翼スタンドへ一直線に飛んでいった。「気持ちよかったです。(ダイヤモンドを)一周回っている時間がすごい幸せでしたし、嬉しかったです」。お立ち台でこう語る栗原の目は少しばかり潤んでいるようにも見えた。

 そんな栗原の心を支えたのが先輩からの一通のLINEだった。昨年3月30日のロッテ戦(ZOZOマリン)。守備中に左膝の前十字靱帯を断裂する大怪我を負った。病院で受診して診断結果が出たのは、ちょうど1年前の3月31日。その日の夜、栗原の携帯電話に届いたのは甲斐拓也捕手からのLINEだった。

「拓也さんに『全力プレーの中ではあったけど、時間を戻せるなら戻したいだろう。たくさんの人に迷惑をかけて、たくさんの人にお世話になって、必ず戻ってこい』と言ってもらいました。(今日のホームランで)1人で泣いたのを思い出しました」。栗原は試合後にこう明かしていた。

 では、送った甲斐はどんな心中だったのか。3人の投手をリードし、まず零封勝利に導いた試合後、甲斐は「悔しいに決まってますし、怪我なんかもちろんしたくないに決まっているんで……。そういう感じで送りはしましたけど」と短い言葉に思いが透ける。昨季、不在だった後輩の復活を「やっぱり頼もしい存在だなと思いました」と嬉しそうに振り返った。

 甲斐と栗原の関係は深い。遠征先のホテルでは部屋で野球談義に花を咲かせたり、2021年の東京五輪ではチームメートとして金メダル獲得に力を注いだ。栗原はもともと捕手。高校日本代表に選ばれるなど世代を代表する捕手で、甲斐とは同じポジションを争うライバルでもあった。

 そんな栗原は2019年から外野手として頭角を表し始め、2021年からは野手1本でプレーするようになった。捕手への未練を捨て去る1つの要因となったのも甲斐の存在。「拓也さんの存在がすごく大きい。すごいな、と」。チームのために時間を費やし、日々、寝る間を惜しんで準備を続ける先輩の姿を目の当たりにしてきた。生半可な覚悟では続けられるものではない。武器である打撃を伸ばし、野手として生きていくことを決めた。

 そんな固い絆で結ばれている栗原と甲斐。栗原はお立ち台で「たくさんの人に迷惑をかけながら、お世話になりながら、リハビリ続けてきてよかったなと思いますし、これから恩返しできるように頑張りたいと思います」と口にした。それはまさに甲斐があの夜送ってきたLINEの内容と重なるものだった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)