“打てる捕手”と大きな期待も2軍降格 渡邉陸に生じたキャンプ中での“迷い”

ソフトバンク・渡邉陸【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・渡邉陸【写真:藤浦一都】

「実戦が入ってきた時に去年の良い時と『あ、何かちょっと違うな』みたいな」

 ソフトバンクの渡邉陸捕手が新しい自分を確立しようとしている。24日にタマスタ筑後で行われた3軍の火の国サラマンダーズ戦に「4番・捕手」でフル出場し、1打数1安打1打点2四球。全打席で出塁し、決勝点となる唯一の打点もあげた。守備でも3投手をリードして完封勝利。この日は2軍戦がなかったため、自ら出場機会を求めての3軍戦出場だった。

 渡邉陸は今春キャンプをA組で過ごした。甲斐拓也捕手を脅かす存在として首脳陣から期待を寄せられ、オープン戦にも出場していたが、攻守に精彩を欠いた。厳しい捕手争いの中で3試合の出場に留まり、8打数1安打で打率.125。出場機会を確保するためにファームの春季教育リーグにも出場してきたが2軍降格となり、17日に開幕したウエスタン・リーグで出場を続けている。

 A組でキャンプインを迎えたものの、悩みは消えなかった。2軍で再調整となった渡邉陸は3軍戦での出場を終えて「バッティングが思った通りにいかなくて。迷いじゃないですけど、そういうのがずっとあった中で2軍が開幕して。1打席でも打席に立ちたいなと思って、今日は(3軍戦に)出ました」と説明した。

 中村晃外野手に弟子入りした自主トレで、手応えを感じてキャンプに臨んだはずだった。だが、「自主トレでやってきたことをキャンプで出そうとした時に、練習では良かったんですけど、実戦が入ってきた時に『あ、何かちょっと違うな』みたいな。去年の良い時とはやっぱりちょっと違うなっていうのがあって」と戸惑いが生まれた。

 なかなか上手くいかず、試行錯誤を続ける日々。その中で渡邉陸は“新しい自分”を追求しようとしている。「去年(の良い時)に戻そうって考えるよりは、新しい自分を……という感じでやっています」。去年の良かった時というのはあの“衝撃デビュー”の頃だ。プロ初スタメンだった5月28日の広島戦でプロ初安打となる3ランを放つと、さらに2打席連発。3安打2本塁打5打点とインパクトある活躍を見せたのだった。

 ただ、その頃に戻ろうとは考えていない。自主トレでは「出来るだけ動きを少なくして、コンパクトに」と打撃フォームをシンプルにすることに取り組んだ。ただ、対ピッチャーとなると「自分が思っているポイントにバットが出てこなかった」。小久保裕紀2軍監督からは「構える位置がちょっと浅いんじゃないか。もうちょっと深めにとった方がいいんじゃないか」と助言を受け、模索している段階だ。

 捕手は経験が求められるポジションだが、経験の浅さを悲観するのではなく、昨季や今春キャンプで学んできたことを肥やしにしようとしている。「ちょっとずつ自信はついてきましたし、冷静に物事をちょっとは見られるようになったと思います。やっぱり出て学ぶことはすごく多いなって。今年になってからもめちゃくちゃ学んだことありますし」と少しずつではあるが、積み上げてきたものの大きさを感じている。

「去年出来なかったことが、今年はいろんな知識も学んでこられたので、少しずつ出来るようになってきているかな」と手応えもある。打者の反応を見てどう配球するかという点で、「去年まで1か2しかわからなかったことが今は3つ、4つ(に引き出しが)増えました」と言う。競争は激しいが、「他の選手のことは気にせずに、自分のやるべきことをやるだけだとは思います。あとは、せっかくいいキャッチャーが多いので、いろんな話を聞いたりして、自分の引き出しをまた増やしていきたいなっていうのはあります」とも語っている。

 ライバルであることには変わりはないが、他の捕手陣から良い所を学び、自身の成長に繋げようという意欲が渡邉陸にはある。今季FAでDeNAから加入した嶺井博希捕手に対しても「今までにない考えとかも聞けて勉強になっています。良い先輩から学ぼうと思っています」と語る。“打てる捕手”として期待の大きい渡邉陸にとって今が頑張りどころ。攻守にわたる更なる成長を期待したい。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)