筑後から宮崎を目指す育成左腕の熱い思い 千賀や石川ら育った“虎の穴”で得たヒント

ソフトバンク・加藤洸稀【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・加藤洸稀【写真:上杉あずさ】

高卒2年目の加藤洸は筑後でのC組スタートに「悔しかった」

 春季キャンプでアピールを目指すのは宮崎組だけではない。筑後で汗を流す若鷹たちも思いは同じ。宮崎キャンプ“昇格”への強い思いを抱く1人が、高卒2年目の加藤洸稀投手だ。滝川二高から2021年育成ドラフト6巡目でソフトバンクに入団した左腕。ルーキーイヤーの昨季は、3軍戦で先発として経験値を積んだ。C組でキャンプインを迎えたが、宮崎キャンプへの意欲を日々燃やしている。

「組分けを見たときは悔しかったです」と、筑後で研鑽を積む加藤洸は率直な思いを語る。今季から4軍制も始動し、選手の数も支配下、育成合わせて120人を超え、類を見ない大所帯となった。A組はおろか、B組に入って宮崎キャンプに参加することさえ高い壁がそびえる。

 宮崎行きの切符を得るため、1月の育成練習期間中も投手コーチが視察に来るタイミングでブルペン入りし、投げ込みをするなど可能な限りアピールを続けてきた。だが、突きつけられた現実は「また筑後か……」。同学年の育成投手は宮崎キャンプに参加した選手はいない。それでも、闘志をむき出しにする。

「同い歳だったら(風間)球打も行っているし、野手なら三代(祥貴)も行っている。宮崎に行ってるのは凄いなと思うし、悔しいなと思うし、羨ましい。向こうでやるのとこっちでやるのは全然違うと思うので。途中からでも絶対に行けるようにします」。気持ちの熱さを胸に秘めるだけではなく、“言霊”にしようとあえて口に出す。

「めちゃくちゃ宮崎に行きたいので、若田部コーチに毎日言うようにしています。『宮崎行きますよ』って」と笑う。若田部健一3軍投手コーチからは「焦るな」と言われているが、当の本人は本気そのもの。「怪我だけはしないように」と冷静さも失わないようにしつつ、姿勢は前のめりだ。昨春のキャンプはリハビリ組。出遅れた苦い経験も生かし、身体作りへの意識も強く持ちながら、アピールしようとしている。

 手応えも感じている。第1クールの最終日には、今年初めて打撃投手を務めた。「オフに取り組んできたことが出せました。球種もコースも伝えた上でファウルが取れたり、押し込めいてたのは良かったです」と振り返る。オフの取り組みの1つが自主トレでの変化。今年1月、育成練習がオフの日に、鴻江寿治トレーナーが福岡県内で主宰する「鴻江スポーツアカデミー」の合同自主トレに1日だけ参加した。

 同アカデミーと言えば、かつてホークスでは千賀滉大投手や石川柊太投手が門を叩き、飛躍のキッカケを掴んだことでも有名だ。「今まで受けた指導と全く真逆だったんで面白いなと思いました」と加藤洸。「今までは体重を後ろに残して前にぶつけるイメージで投げていたんですけど、今は体重を最初から前に置いて、そのまま後ろに行かず前に行くイメージで投げるようアドバイスを貰いました。前から前に。下半身がスーッと流れていって、勝手に腕が付いてくるみたいな」とヒントを得た。

 目から鱗の教えも、徐々にその感覚が体に染み付いてきた。この自主トレに参加していた西武の今井達也投手や隅田知一郎投手、ヤクルトの長谷川宙輝投手ら他球団の先輩投手陣を質問攻めにし、それぞれの考え方に耳を傾けるなど貴重な時間を過ごした。とにかく強い思いと向上心で、2年目の飛躍を誓う。まずは宮崎入りの目標を叶えられるのか。投球と心意気に注目したい選手だ。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)