近藤健介に伝えたホークスの“厳しさ” 長谷川コーチが今明かす入団交渉同席の舞台裏

ソフトバンク・長谷川勇也1軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川勇也1軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

長谷川勇也打撃コーチを鷹フルが単独取材 近藤の技術には「嫉妬する」

 2022年の“ストーブリーグ”で話題の中心となった1人が近藤健介外野手だろう。日本ハムから海外FA権を行使して、争奪戦となった末に自らの意思でソフトバンクを選んだ。背番号「3」のユニホームに袖を通して、現在は春季キャンプを順調に過ごしている。

 昨年12月14日の入団会見で近藤は言った。「長谷川コーチはホークスの厳しさならではの重圧だったり、厳しい面もお話をいただいた」。入団交渉に同席した長谷川勇也打撃コーチからの言葉がホークス入団の決め手の1つとなった。近藤が求めていたのは約束された定位置ではなく、厳しい環境に飛び込んで自分を成長させること。鷹フルでは長谷川打撃コーチを単独で取材し、入団交渉の裏側に迫った。

 FA選手の交渉において、監督が同席するのは珍しくない。ただ現役のコーチが同席するのは異例の“出馬”だ。長谷川コーチは「経緯とかわからないですけど、同席はさせてもらいました」と事実を認める。多くを語ることはなかったが、スーツを着て近藤と膝を突き合わせた。近藤の心を動かした「厳しい言葉」について、長谷川コーチからの観点で語ってもらった。

「常に優勝が絶対条件のチームでやる、1つの負けで悔しがれるというか。そこには優勝に対する強い思いがあると思うので。そういう中でやる緊張感はあると思うし、彼にとってプラスになる部分じゃないかなと思ったので」

 長谷川コーチが考えるのは、野球人としてもう一歩、その先へ成長するためには厳しい環境が必要だということ。常に緊張感を持ち、勝利を宿命づけられた中でやることが自身の成長につながると強調した。「僕もホークスという厳しいチームでやって、学ぶこともたくさんあったし、それは今でも生きています」。ホークスにおける環境や雰囲気、その全てに対する自信があった。

 ホークスは「目指せ世界一!」を掲げ、常に球界の先頭を走ろうとしている。本気で目指す10連覇の偉業や、球界初の4軍制の導入など、現状に妥協しない姿勢を球団としても示してきた。選手にとっては競争を強いられるわけだが、勝ち抜いていかなくては成長できない。近藤を思うからこそ、はもちろんだが、自分の思いを嘘偽りなく伝えようとしたら真っ先に出てきたのが「厳しい言葉」だった。

 通算1016安打の近藤の打撃技術を、春季キャンプからは同じチームの“上司”という立場で見つめている。現役時代に1108安打を放った長谷川コーチですら「ジェラシーを、嫉妬するくらいの技術ですね。羨ましいです」と言うほどだ。「スイングプレーンが綺麗で、体の使い方もシンプル。再現性が高い」と具体的に評価する。厳しい目を持とうとも、近藤が築いてきた技術には褒め言葉が続いた。

 ファンが期待するのは、一体どんな打線になるかということ。柳田や栗原らと、近藤がどんな化学反応を起こすのか、夢は膨らんでいく。長谷川コーチは打順に関しては固定的な考えではなく、近藤に関しても「どこにもフィットしてくれる選手。彼のバッティングをサポートしていくのを目標に頑張りたい」と臨機応変に並べると強調した。

 現役時代の長谷川コーチは「求道者」「打撃職人」といったイメージだった。バットを置いて、コーチとなって2年目。今の長谷川コーチの夢は、12球団一の打線を作ることだ。「同じチームでタイトル争いができるような。圧倒するくらいの打席にするのが僕の目標です。圧倒したいです」。夢を追う男の目は、いつまでもギラギラに輝いている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)