復活に燃える男がいる。ソフトバンクの又吉克樹投手だ。昨季、FAで中日から加入した右腕は開幕からリリーフ陣の一角として18試合連続無失点を記録するなど大車輪の活躍を見せていたが、7月に右足甲の骨折などで離脱した。1軍の舞台に戻ってくることなくシーズンを終えることになった。
悔しさを味わったからこそ、今年に懸ける思いは強い。「1番は優勝して、日本一になって、その時のメンバーにいて、ファンの皆さんに(ホークスに)来て良かったね、と言ってもらえるように、1試合1試合大切にやっていきたいと思います」。今季への決意を胸に、いま、宮崎の地で春季キャンプを過ごしている。
3日には2日連続でブルペンに入り、ストレートのみ83球を投げ込んだ。投球練習を終えた後には「構えたところに10球投げて、6、7球は全然行っていない。83球投げましたけど、意図して投げたのは多分4、50球ぐらいで、そこがちょっと自分の中ではまだまだなと思います」と、課題とこのキャンプでのテーマを掲げた。
取材の中で、とても興味深い話をしてくれた。又吉のブルペンでの投球練習は注目に値する。というのも、1球1球、明確に意図を持ち、それを捕手に伝えて投げる。闇雲にボールを投げるのではなく、1球に意味を持たせて投げる。そして、思い通りに投げられないボールにさえ、大きな意味があるという。
「意図したところに意図したミスができるか。例えば、アウトコースに構えて、ミスしたときにボールに投げ切れてるか投げ切れていないかっていうところも確認している」
球威、球質、そしてコントロールと狙い通りのボールを投げられているか、ということに加えて、投げられなかったボールの行く先にも意識を振り向ける。「アウトコースに投げに行って、真ん中高めに抜けていきました、打たれました、じゃ終わり。だけど、アウトローを狙って、それでアウトローからボールになれば、もう1回勝負できる」。ブルペンでもその意識を強く持つ。
「何でそれができていないのか。投げ込んで行って、この感覚だったらミスしても、ここに行くなっていうところを探して、それが見つかったら、今度はその精度を上げていくっていう作業に入っていく。ボール云々というよりも、今どういう体で、どういうミスをしやすいのかっていうのを確認しているところでもあります」
又吉にとってキャンプ中のブルペンでの投球練習は、シーズンに向けて肩を仕上げていく、状態を上げていくのと共に“いいミスの仕方”を体に覚え込ませていく作業でもあるという。「体で覚えないと、という感覚なんで僕は。投げなくて覚えられるのが一番いいですけど、投げないといけない。しっかり投げ込んで、走り込んで、体を使って覚えていきたいと思います」。繰り返しボールを投げることで、体に染み込ませていくのだ。
「実際に長くやってる人はそういうミスの仕方がうまい。甘く入るぐらいだったらフォアボールっていうようなところはより身につけていかないと逆に生き残れないのかなと思います」。“ミスの仕方”の上手い投手として真っ先に名前を挙げたのが、中日時代の大先輩で歴代最多1002試合登板、407セーブをマークした岩瀬仁紀氏。「岩瀬さんは絶対にミスしない」と思い浮かべ、さらに吉見一起氏やホークスの先輩である和田毅投手らも挙げていた。
「山本由伸くんもそうですけど、いいピッチャーはミスをする時に、いいミスの仕方をする。そういうところを真似できるように、球威がない分、やっぱりそこはちゃんとしておかないとっていうのは自分の中であります」。今季の復活を目指す又吉克樹。キャンプの様子がテレビやインターネットで中継もされている。高い意識でボールを投げるブルペンでの投球練習にも注目してもらいたい。