いよいよ勝負の春季キャンプが始まる。藤本博史監督が「レギュラー白紙」を打ち出し、例年以上の激しいポジション争いが予想される今季のホークス。3月にWBCを戦う侍ジャパンにも選ばれた正捕手・甲斐拓也という高い壁が立ちはだかる捕手陣の競争も激戦必至。若手はそれぞれの持ち味を磨き、その座を奪うべく奮闘している。
1軍への切符を奪い合う若手捕手の競争を見届ける立場である高谷裕亮2軍バッテリーコーチに聞いた。現役を退いて1年余りが経った。今季がコーチ就任2年目となる高谷コーチだからこそ、選手たちの意気込む気持ちや焦りは十分理解できる。自主トレ中は「まず打たないと使ってもらえない」と打力に磨きをかける若手捕手も多くいた中で、高谷コーチは「打たないかんとか守れないかんっていうのは結果なのでね。僕はしっかり身体を作って、1年間戦える準備をする、肩を作る、脚をしっかり作る、っていうところだったですね」と現役時代を振り返る。
「バッティングのアプローチの仕方を今年はどうするとか、守備をどうするとか人それぞれあると思いますし、僕も若い頃はそういうのありましたけど、まずはそこで戦えるための土俵に上がれないと何の意味も無い。準備が出来ていなかったら、そこに上がれずに落とされるわけだから、そこに向けて身体の準備をしていく」
こう語る高谷コーチも、現役当初からそう考えて取り組めていたわけではない。プロでの年数を重ねるにつれて、オフの身体作りの重要性を痛感していったという。「やっぱり結果が欲しいので、結果欲しさにバッティングを変えたりとかいろいろありましたけど、根底、走れなくなったら終わりなので。ランニングの量をしっかりしたり、年数を重ねるうちに準備の方が大事という考え方になったかな」。キャンプ、シーズン中も特にハードな練習メニューが課される捕手陣。だからこそ土台作りが重要になるのだ。
もちろん、並行して技術面も磨いていく必要はある。キャンプインと共に戦いのゴングが鳴るわけだが、高谷コーチは捕手陣に大事な心得を説く。「キャッチャーはやっぱり全ての結果を自分で受け止めて欲しいですよね。受け止めて、どう消化して、次に繋げていくかっていうのを。いつまでも『打たれたらどうしよう』とか、打たれたことをくよくよしていたら次に進めない。自分で受け止める、受け止めたものを次にどう生かすか、これが永遠のテーマだと思うんですよね」。
捕手は切り替えが大切なポジションだ。ただ、高谷コーチは「僕、切り替えられなかったですよ。でも、やるしかないので。受け止めて次に行く、切り替えるというよりもそういうスタンスでしたね。自分の出したサインでそういう結果が出てしまったので自分の責任。勝てば、ピッチャー、みんなの頑張り。それでいいんで。ダメな時は受け止めて、次どうするか。そのためにピッチャーとコミュニケーションをとる」という。結果を受けて次に生かす。その繰り返しが捕手というポジションだという。
春季キャンプに臨む若い捕手たちに対して「とにかく目立って欲しいですよね。今年『おっ』というのが見たい」と発破を掛ける。
「去年、1軍がああいう結果になったから、今年絶対勝たないといけない。ぼくら2軍にいる選手にも要求が高くなると思う。1軍で、最後の1勝がクローズアップされますけど、その前に取りこぼしがなかったのかとか。しっかりと取れる試合を取るにはどうするかというのをこちらからも要求するし、コーチとしても責任がある。やるからには、勝つために、抑えるためにどうするか。2軍は育成の部分もあるので、そこは選手とコミュニケーションとりながら、成功も失敗も自分の財産にしていかないといけない。やっぱり勝ちたいじゃないですか。そういうことも含めて、いろんな要求が増えると思います」
チーム内の競争も激しいが、捕手陣全体でのレベルアップを求めるが故に厳しいシーズンになりそうだ。4軍制がスタートし、若手たちの実戦の機会は増えることになる。捕手として重要な「経験値」を積む場が増えることは歓迎すべきところだが、高谷コーチは「入れ替えは全然あると思いますよ」と2軍、3軍、さらには4軍も含めて頻繁な選手の昇降格を思い描く。
捕手として「ポンポン行けるのも大事だし、慎重に行けるのも大事。全部経験なので」と言う。当然、それは簡単なことではない。若鷹が思い悩むこと、勝負にかける思いも理解を示した上で「その気持ちがないと。1軍でレギュラーなるためにはそういう気持ちは必要。でも、そのためにどうするかって、まず1年戦えないと話にならない。キャンプの準備でスタートラインに立てないと意味が無い。そういう意味で取り組んで欲しいですね」と期待を込めていた。