7日に来季の契約を結んだソフトバンクの泉圭輔投手。契約更改交渉後の会見では、SNS上で浴びた誹謗中傷への恐怖を告白し、リーグ最終戦後にあった嘉弥真新也投手、甲斐拓也捕手とのエピソードについても明かした。
10月2日のロッテ戦。勝つか引き分けでリーグ優勝が決まる一戦で、泉は2点リードの6回に2番手で登板した。だが、リードを守ることはできず、山口に逆転3ランを浴び、チームは敗戦。右腕は、ベンチで人目をはばからず号泣した。結果的にオリックスに逆転でのリーグ優勝を許すことになった。
そのロッテ戦の直後、嘉弥真と甲斐に食事に誘われた。「嘉弥真さんと拓也さんに『無理矢理にでもメシ行くぞ』って言われて」。外出するにも恐怖を覚えたが、嘉弥真が泉を部屋まで迎えに行き、焼肉店へと移動する道中、甲斐は泉の手を握っていてくれたという。泉の苦しい心中が分かるからこそ、あえて2人は食事に連れ出した。
この話を聞いた時にふと思い返したのが、2年前、甲斐拓也から聞いた言葉だった。
「僕も苦しんでいる人がいたら、寄り添える人間になりたいと思いました」
日本一に輝いた2020年のことだ。ソフトバンクはシーズン序盤はなかなか波に乗れず、借金生活が続いた。甲斐も精彩を欠き、7月上旬には3試合連続でスタメンから外された。食事会場にも行かず、コンビニで食料を買ってホテルの自室に閉じこもった。毎晩、涙を流した。
精神的に追い込まれ、落ち込んでいた甲斐に寄り添ったのが王貞治球団会長、城島健司会長付きアドバイザー、そして今年から1軍投手コーチに就任した斉藤和巳氏らだった。直接話を聞いてくれたり、わざわざ電話をくれたり……。球団に批判の手紙が届いたりもしたが、周囲で寄り添ってくれる人がいたことで、甲斐は立ち直ることができた。
苦悩の1年を戦い終えたあとに、甲斐がポツリと口にしたのが、この言葉だった。それから2年が経った。最終戦での悪夢、そして泣き崩れる後輩。2年前の自分の姿を重ねたのかもしれない。前日の西武戦でもサヨナラ被弾を浴び、涙を流した海野隆司捕手の隣にはずっと甲斐の姿があった。あの時の言葉の通り、泉に、海野に寄り添っていた。
嘉弥真だってそうだ。2012年にプロ入りし、11年間プレーする中で苦しい時も、悩む時もあった。その時に数々の支え、寄り添ってくれる先輩や仲間がいたから、ここまで来ることができた。そんな経験があるからこそ、悲しみに暮れていた泉に、すぐさま救いの手を差し伸べることができた。
嘉弥真と甲斐の気遣い、そしてファンからの励ましで立ち直ることができた泉。右腕もこの経験から、後輩が悩み、苦しむ時には手を差し伸べるようになる。こういった姿勢もまた、脈々と先輩から後輩へと受け継がれていくものなのだろう。