城島健司CBOがキャンプ前にお願い…「ファンサービスをしないといけない」
本当に、ファンサービスする姿が目立つ。そんな春季キャンプだ。球春が始まる直前、1月31日。城島健司CBOは、こんなことを選手たちに伝えた。
「サインをしたり、写真を撮ったり、手を振ったり。王会長が監督をされている時から、僕らが主力だった時から言われてきました。お客さんが入ることは当たり前じゃない。プロ野球選手は、バッティングやトレーニング、練習をしたりすることと、同等にファンサービスをしないといけない。これはフロントサイドからのお願いです。僕たちの給料は、ファンの皆さんからいただいているんだよ、と。その1点だけ言わせていただきました」
選手たちも練習の合間で、できる限りファンとの交流をしようとしている。そんな中、今年からサインを変えたのが周東佑京内野手だ。「前のやつだと、もらった時に誰からのサインなのかわからないかなって思ったんですよね。もっと“周東”ってわかりやすくした方が『このサイン、周東からもらったよね』って」。これまで以上にハッキリと「Shuto」と記すようになった。新しい一筆が誕生した瞬間。意外な指摘を受けた時のエピソードに迫った。「これ絶対意識してるじゃないですか!」。
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2児の父親でもある選手会長。プロ野球選手に憧れる子どもたちのために、わかりやすくしたのかと聞くと「それはどうでしょうかね、だって英語は読めないじゃないですか」と笑顔で話す。一方で「もらった時に誰からのものか、わかりやすい方がいいとは思いました。最初は漢字にしようかと思ったんですけど、難しいなって思ったんです」。老若男女を問わず、ファンの気持ちを考えれば自然とシンプルな形に落ち着いた。
新しいサイン。“最初の目撃者”となったのが、梅田歩夢さんだ。グラブメーカーの「久保田スラッガー」で、ホークスを担当している。周東とは2021年に出会い、年間を通してコミュニケーションを取りながら、少しでもいいグラブを作ろうと努力している。昨年は、初めてのゴールデン・グラブ賞獲得をともに喜んだ。選手会長のお茶目な一面も、よく知っている1人だ。
「今年も頑張りましょうということで」。1月上旬、周東と食事をする機会があったという。福岡の鰻屋さん。お腹を満たし、解散の空気が流れ始めた頃、お店側からご一筆いただけないかとお願いされた。新しいサインを披露したのは、そのタイミングだ。「え! 佑京さんサイン変わっているじゃないですか!」。驚く梅田さん。「そうなんよ」と、納得した表情だったそうだ。
当時の光景を、梅田さんもよく覚えている。「『えっと……』『こうやったっけな』みたいな感じで、まだ慣れていなかったですね。でもその時も『子どもとかがサインを見て周東ってわかるようにしたい』って言っていました」。丁寧に書こうとする姿が印象的だった。筆を走らせ、少しずつ輪郭づいていくサイン。ピンときたのは、その瞬間だった。「佑京さん、めっちゃスラッガー意識してるじゃないですか!?」。
今季から周東は、久保田スラッガーのアドバイザーに就任している。より密にサポートする関係性となり、メーカーの名前まで背負ってプレーする責任も生まれた。プロ野球選手にとっての“代名詞”であるサインが、自社のロゴに似ているのだから、梅田さんは大興奮。「『あ、ほんまや』って感じでした(笑)」と選手会長のリアクションを明かす。「うちのアドバイザーになってくれたからですよね、とか僕からも言いました。『さすがアドバイザー!』って」。終始、和やかな雰囲気で食事会は終わった。
実は周東、サインを変えるのはこれが初めてではない。「これまでも何回か変えていますね。本当は(もうちょっと早く)変えようと思ったんですけど」と近年、温め続けていた考えでもあった。サインの形について本人は「スラッガーっぽくなりましたね。意識したわけではないですけど、そうなったので。そういうことにしておきましょう」と、梅田さんの願望込みの指摘を受け入れた。支えてくれる人たちに感謝して、今年も記憶に残るプレーを届けていきたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)