巨大戦力で「1軍が見えづらい」 若手へ理解も…中村晃が渡邉陸に求める具体的な“ビジョン”

自主トレを公開した中村晃(右)と渡邉陸【写真:冨田成美】
自主トレを公開した中村晃(右)と渡邉陸【写真:冨田成美】

渡邉陸は2シーズン続けて1軍出場なし…4年連続での合同自主トレ

 秘めているポテンシャルは、誰よりも知っている。だからこそ、才能開花のために重要な“鍵”を口にした。ソフトバンクの中村晃外野手が福岡工業大で自主トレを公開した。シーズンに備えるオフ期間、4年連続でトレーニングをともにしているのが、渡邉陸捕手だ。通算1427安打のヒットマンの目から見て、愛弟子に必要なのはどんな取り組みなのか。鷹フルの単独インタビューで明らかにした。

 1989年11月生まれの中村晃と、2000年9月生まれの渡邉陸。師匠は「え、11個も離れてるの!?」と、年の差には驚きを隠さない。かつて、自身のもとで自主トレを行っていた栗原陵矢内野手には、自ら「もういいんじゃないか」と“卒業”を促したこともあった。「陸にも『もういいだろ』って言っていますよ。でもそれは本人が決めることですから」と、弟子入りをお願いしてきた覚悟と気持ちは、先輩としても真っすぐに受け取っている。

 渡邉陸は2022年5月28日の広島戦(みずほPayPayドーム)で2打席連続本塁打と、衝撃のスタートを切った。スタメンで出場していた中村晃も「覚えていますよ。すごかったですよね。それからは伸び悩んでいるかもしれないですけど」と記憶にはしっかりと残っている。しかし、2023年から2年間は1軍での出場がない。2024年は2軍戦でも2本塁打に終わり、今季からは背番号を00番に変えて不退転のシーズンに挑む。実績十分の背番号7から見て、重要な鍵を語った。

「ポテンシャルはすごいですよ。あとは、試合でどう打つか、じゃないですか。結果を出すのは別な部分があると思うので、そこが自分の中で一皮むければいい成績を残せる選手だと思います」

 簡単なことではないと理解しつつも「どう打つか」という端的な言葉で表現した。若手時代、自身が師事したのは小久保裕紀監督と長谷川勇也R&D。2017年以降は、後輩の面倒は見つつも「基本的に自分で(自主トレを)やってきた。この期間はめちゃくちゃ大事ですから」と、孤独とともに自己研鑽してきた男だから説得力がある。

 2022年1月31日、春季キャンプインを控えたナインに王貞治球団会長はこんな訓示をした。「我々の世界は結果が全て。練習ではお金にならないし、練習は準備なんだよね。開幕以降の試合での結果が、自分の評価につながり、自分が手にするお金もそこから入ってくる」と熱弁した。中村晃も「そうしないといけないし、会長がおっしゃっていることは僕なりにはわかりました」と静かに話した。渡邉陸に限らず、若鷹に共通して言えるのは、具体的なビジョンが必要だということだ。

「何のために練習をしているのか。自分の中でしっかりとイメージしておかないと。ただ練習だけすごい選手になってしまう選手もいっぱいいるので。そこは難しいです。いいバッティング、いい形も大事ですし、両方を求めないといけないと思いますね」

 何千、何万とスイングを繰り返す中で、たった1つのきっかけで才能が花開くこともある。自分の能力を底上げするだけではなく、試合で結果を出すことが最大の目標だ。中村晃自身も「この人を打たないと、こういう投手を打たないとダメだなって言うのはありましたね」と若手時代を振り返る。名前を挙げたのはロッテなどNPB3球団で通算97勝を記録した成瀬善久氏だった。

「成瀬さんにボコボコにやられて『この人を打つためにはどうしたらいいのか』っていうので2軍に行って、色々自分の中でレベルアップして、そこからは(試合に)出られているのかなって自分の中では思います」。レギュラーになるために、乗り越えなければならなかった厚い壁だった。自身が全試合出場を果たした2014年は、11打数7安打と攻略。課題のままで終わらせるのではなく、経験を積むたびに成長する選手だけがレギュラーを掴める。鼻息を荒くする選手にとって、大切な要素だ。

 一方で、自身が若手だった時と、状況が変わっていることも理解している。「難しいですよ」と語るのが、選手の数そのものが増加したことだ。2023年からは4軍が新設されたことで、「人数も多いですし、1軍が見えづらくなってくるじゃないですか。その中でどういうふうにイメージするのか」。その上で「陸は打てば出られるし、すぐそこまで来ていると思いますけどね」と、抱く期待は誰よりも大きい。

 シーズンのために準備する1月という重要な期間を預かっているのだから、中村晃にとっても「(渡邉陸が)活躍できなかったら、やっぱり責任を感じます」と本音を語る。「なんとか頑張ってほしいですよ。いいものはあるので」とエールを送った。11歳差の師弟関係を、1軍の舞台で必ず見たい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)