移籍直前、甲斐拓也が「俺行くから」 芽生えた覚悟…海野隆司が受け取った“最後の言葉”

ソフトバンク・海野隆司(左)と甲斐拓也【写真:竹村岳】
ソフトバンク・海野隆司(左)と甲斐拓也【写真:竹村岳】

“ポスト甲斐”筆頭も目標は控えめ「100試合以上は出たい」

 甲斐拓也からの“ラストメッセージ”を受け取り、決意を新たにした。「レギュラーを狙わなきゃいけないところですし、誰にも負けたくないっていう気持ちです」。今季6年目を迎える海野隆司捕手。プロ野球人生で“最大のチャンス”を目の前にしても、冷静さは変わらない。

 昨季は正捕手の甲斐とともに2番手捕手として1軍にフル帯同した。キャリアハイとなる51試合に出場。うち38試合でスタメンマスクをかぶった。直近の実績からいえば、“ポスト甲斐”の筆頭であることは間違いない。巨人へのFA移籍が発表される直前、甲斐から贈られた言葉は実にシンプルだった。

「『俺行くから。頑張れよ』って。本当にそれだけでした」。かつては自主トレもともにしていた仲だからこそ、多くの言葉はいらなかった。海野の実直な姿勢を常に評価し、「100%ライバルだと思っています」と真顔で語っていた甲斐。自らの立場を脅かすほどの力があることは、十分にわかっていた。だからこそのシンプルな別れの言葉だった。

「もちろん、甲斐さんがいなくなって寂しい思いもありましたけど、『本当にチャンスだな』っていうのが、一番率直な思いですね」。プロ野球選手である以上、試合に出て活躍してこそ価値が生まれる。海野自身がレギュラーを取り、チームの勝利に貢献することこそ、甲斐への恩返しになることはわかっている。

 正捕手争いを巡っては、昨季2軍で経験を積んだ谷川原健太捕手、実績のあるベテランの嶺井博希捕手、打撃が魅力の渡邉陸捕手と、ライバルは多い。そんな中で海野の今季の目標は「キャッチャー陣で一番多く試合に出ること。100試合以上は目指したいですね」。一見、控えめに思えるが、培ってきた自信の裏返しだった。

「ガツガツいくというよりは、本当に淡々と。もう堂々とやるだけだと思っているので。2軍で野球をやりたくないっていうのは、去年からずっと思っていたので。1軍の、あのホークスのメンバーの中で野球をやりたい。試合に出たいっていうだけです」。サバイバルに真正面からぶつかっていく覚悟だ。

 福岡県宮若市で今宮健太内野手らとともに行っている自主トレでは、最大の課題である打撃力向上に取り組んでいる。「去年はやっぱり成績も良くなかったし(打率.173)、シーズン前半の方に色々とやりすぎて、訳が分からなくなってしまったので」。バットから迷いが消えれば、正捕手への道筋は一層クリアになる。

「プレースタイルをどうこう変えることはないので。自分の中で『これかな』っていうのはある程度持っていますし、あとはさらにレベルアップすることだけです」。入団から背中を見続けてきた甲斐がかつて付けていた背番号「62」を継承する27歳。チームを背負う覚悟はできている。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)