周東佑京の本心、甲斐拓也は「行かないだろうなって…」 告げられた2分間の夜の電話

ソフトバンク・周東佑京、巨人移籍が決まった甲斐拓也、ソフトバンク・栗原陵矢(左から)【写真:冨田成美】
ソフトバンク・周東佑京、巨人移籍が決まった甲斐拓也、ソフトバンク・栗原陵矢(左から)【写真:冨田成美】

巨人に移籍する甲斐拓也…周東佑京は「よくご飯に連れて行ってもらった」

 偽りのない本音を明かした。「拓さんって、野球が好きなんだなって思いました」。ホークスを去ることになったのに、より一層、先輩を大好きになってしまった。胸中を語ったのは、周東佑京内野手だ。

 巨人は17日、ソフトバンクから国内FA権の行使を宣言していた甲斐拓也捕手の獲得を発表した。14年間を過ごしたホークスに別れを告げ、新天地にセ・リーグを選んだ。栗原陵矢内野手も「寂しいです」と漏らすなど、チームメートから次々と惜別の言葉が溢れた。周東も、グラウンドでもプライベートでもお世話になった1人だ。

 16日の夜、甲斐から着信があった。「1回で取りました。寝ようとしていたんですけど、そのタイミングで電話がきました」。11月13日にFA宣言をしてから1か月以上。第一声は、ホークスを「出るわ」だった。「『ああ……』って。『わかりました』ってそれくらいです。またどこかで会えると思うので。拓さんとも連絡は取ると思うので。1分2分くらいです」。勇気ある決断だとわかっていても、上手く言葉が出てこなかった。

 栗原も含め、プライベートでもいっぱいお世話になった。「拓さんがいるだけで安心感がありますね。野球をやっている時もそうですし、ご飯もよく連れて行ってもらっていたので、一緒にいたら安心できるというか」と先輩の存在を表現する。移籍か、残留か。思い悩む姿についても「大変なんだろうなって。すごく色々考えているんだろうなと思っていました。色々と話も聞いていましたし」と代弁した。

練習中に談笑するソフトバンク・周東佑京(奥)、巨人移籍が決まった甲斐拓也【写真:竹村岳】
練習中に談笑するソフトバンク・周東佑京(奥)、巨人移籍が決まった甲斐拓也【写真:竹村岳】

 栗原は甲斐に「行かんといてください」と、引き留めていたと言う。選手会長は「いやいや、止められないじゃないですか。自分の考えですし」と静かに見守っていた。そして明かしたのは、周東だけの「内心」。必死に笑顔を作ると、小さく頷き、言葉を絞り出した。

「行かないでほしいとも思っていましたし、行かないだろうなとも、内心では思っていました……」

 巨人への移籍が発表され、新天地に行く32歳は球団を通じ「つらい」ともコメントした。来季が15年目。求めたのは「お金じゃないもの」だったのも、甲斐らしかった。周東も「仕方ないなと思います。『野球選手として……』っていうのは言っていましたし、いろんな話を聞いて、拓さんって野球が好きなんだなって思いました。出ていく決断もそうですし、やっぱり好きなんだなって」。決断から信念が伝わってきたから、大好きな先輩はカッコいいと、心から思えた。

 周東もプロ7年目を終えた。「(甲斐との)思い出はいっぱいあります」と、1つには絞れない。「(佐藤)直樹やクリ、ご飯にみんなと行っていたこともそうですし。『僕の今の状態だったらどうやって攻めますか?』って聞いたりしながら、打席に向かうことも多かったです」。記憶に刻まれているのは、捕手として徹底的な姿勢だった。

「一番は、準備ですかね。あのノートを作っているのを見て、最後日本シリーズの時にどうやってやっているんだろうっていうのは見ながら、ちょっとだけ手伝いながらやっていたので。この作業を1年間やっていた、今まで何年もやっていたというのは本当にすごいです。今まで勝っていたのも、投手やチームもいい成績だったのも、こういう準備があったからなんだなって思いました」

 シーズン中から時折、試合中に披露していた分厚いノート。パ・リーグの5球団別に分かれており、周東は中身を見たことがあるという。「すごいです。全部手書きですし、めっちゃ時間を使っているんだろうなって思いました」。丁寧に書かれた字から、人柄と努力が伝わってきた。甲斐の努力には、自分自身も助けられているんだと思い知った瞬間だった。

巨人移籍が決まった甲斐拓也、ソフトバンク・有原航平【写真:竹村岳】
巨人移籍が決まった甲斐拓也、ソフトバンク・有原航平【写真:竹村岳】

 今季、周東は中堅を守り続けた。捕手の甲斐とは、相対するように守備に就き「とんでもないボールも止めていたので、本当にすごいなと思いましたよ。全然後ろ逸らさないし、今シーズンは(甲斐の捕逸を)見ていない気がします」と、ブロッキングが印象に残っている。相手打者の打球方向についても、マスクを被る先輩の意見に耳を傾け「最近の傾向や、追い込まれたら、1ストライク目まではこっちに飛ぶ……とか。そういうのも聞きながら守っていました」と感謝は尽きない。

 外野手として、ゴールデン・グラブ賞を初めて掴んだ。「僕が獲れたのも、拓さんの助けがあったからです」。同じく栗原も初、甲斐は7度目の受賞となった。「なかなかみんな一緒に獲るのは難しい賞なので。嬉しかったですね」。大好きなチームメートと同じ年に、金色のグラブを手にすることができたことも、大切な思い出の1つだ。

 栗原は甲斐の存在を「お兄ちゃん」と表現していた。周東は「僕もお兄ちゃんじゃないですかね。野球のこともそうですし、プライベートのことでも色々と話をしました。相談も乗ってくれたので。クリ、直樹もそうですけど、チームで一番一緒にいた時間が長かった。本当に家族みたいな感じです」と同調した。今オフでは石川柊太投手もロッテに移籍。2022年オフは海外FA権を行使して、千賀滉大投手が海を渡った。28歳の背番号23は、まだまだ“見送る側”。偽りのない胸中を語った。

「寂しいですよ。出て行ってしまうのは、よくしてもらっていた仲のいい先輩ばかりなので。寂しいのは、寂しいですけど。千賀さんもそうですけど、頑張っている姿を見る機会は多いですし、連絡も取りますからね。僕も頑張ります」

 大好きな「お兄ちゃん」はもういない。北風が吹くみずほPayPayドーム。周東が必死に作った寂しそうな笑顔が、忘れられない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)